
有名なカードマジックのひとつに「トライアンフ」というのがあります。デック(トランプ一組みの束)を広げると客に覚えてもらったカードだけが裏返ってるというアレです。考案者は「プロフェッサー」の異名で知られたマジック界の巨人ダイ・バーノンだといわれています。視覚的なインパクトのあるカード奇術なので以来数々のマジシャンがいろんなバリエーションを考案してきましたが、この「トライアンフ」に驚くべきエフェクトを加味した「山火事トライアンフ」という奇術が日本のアマチュアマジシャンである佐藤総氏によって考案されました。マニアの世界の事なので一般的な知名度はないですが、佐藤総氏が「山火事トライアンフ」を含むレクチャーノート『トランプと悪知恵』をマジックショップ『フレンチドロップ』から出した2003年、その独創的なアイデアはマニアの間では衝撃的な事件になりました。文章ではこのエフェクトの凄さは伝わらないので、興味のある方はリンク先の動画をご覧ください。まさにどう見ても不可能な状態からカード当てをします。カードは仕掛けの無い普通のトランプで演技しています。芸術的なカード奇術ですね〜
https://www.youtube.com/watch?v=wtgSaTWZNtI

クラシックなカード奇術の中で私が最も好きなのは「アウト・オブ・ジス・ワールド」という奇術です。奇術師ポール・カリーが1942年に発表した伝統的な奇術ですが、そのビジュアルインパクトの凄さは現代でも色あせてません。客にシャッフルしたカードを手渡し、客は裏を見ずに1枚づつカードを2組にランダムに分けていきますが、2組のカードの山を裏返すときれいに赤(ハートとダイヤ)、黒(スペードとクラブ)に別れてしまう、というものです。悪魔的に心理の裏を突いた手順で、ダイ・バーノンも「一世紀に一度の傑作だ」と賞賛したそうです。オカルト関係の著書で知られるコリン・ウィルソンは、この奇術を超能力バスターで知られるJ・ランディに見せられ、「彼が奇術師であることを知らなかったら本気で超能力の存在を信じたことだろう」と言わしめた傑作マジックです。やり方は高木重朗著『カードマジック事典』(東京堂出版)に「赤と黒」のタイトルで紹介されています。
動画は日本語のもので適当なものが見当たらなかったので英語での演技です。シャッフルしたカードを分けるときに裏のカードを客に「黒」か「赤」かを適当に言ってもらいながら2組に分けています。
http://www.youtube.com/watch?v=KCWxSDeGR1I

コイン・マジックの分野での日本人の貢献というと、古くは石田天海の編み出したテンカイ・パームが有名ですが、70〜80年代あたりに登場した両手を思いっきり開いた状態でコインを忽然と消してみせる六人部慶彦(むとべよしひこ)氏のムトベ・パームは革命的な事件だったのではないかと想像します。そして近年においては原田大樹氏の考案したこのハラダ・ホールドがマニアの注目を集めました。このコイン消失の技法は、開いた手のひらの裏表まで見せながら何も無いように消失させてしまう凄い技です。ハラダ・ホールドはレクチャーDVDが出ていますが、ムトベ・パームに関しては資料は少なく、『夢のクロースアップ・マジック劇場』(松田道弘編 社会思想社)が比較的入手しやすい解説書でしょうか。他に『ニューヨーク・マジック・シンポジウム コレクション・5』でも解説がありますが、ムトベ・パームをマスターしたいだけなら前記の本だけで十分だと思います。ムトベ・パームもハラダ・ホールドもかなり練習のいる高度な技法で、マスターする達成感はありそうですが、いくら高度な技法も見る側にとっては解らない裏の事情なので、費やした苦労を理解してくれるのはマニア同士の間だけなんでしょうね〜 どちらも、コインマジック入門には向かないマニアな技ですね。
ハラダ・ホールドの演技
http://www.youtube.com/watch?v=0iUjLk9vl2w
アマチュアマジシャンによるムトベ・パームを含むコインマジックの演技。0:53からのコイン消失にムトベ・パームを使用されています。
http://www.youtube.com/watch?v=Bt45inEjHZA

超絶技巧のコインマジシャン、ポン太 the スミス。その技巧的コイン使いはまさに職人芸です。動画は彼のレクチャーDVD『Sick』の紹介ですが、見てもわかるように、とても現象がシンプルでインパクトがあります。DVDを見ましたが、タネが解っても真似できないレベルの職人技でした。一般にコインマジックでよく使われるのはケネディの肖像のアメリカのハーフダラーですが、ポン太氏の演技ではそれよりも一回り大きい1ドル銀貨、通称モルガンダラーを使用し、客目線での視認性を高めていますが、その分、演技の難易度は非常に高いです。
http://www.youtube.com/watch?v=o0u_5834RGo

緒川集人は日本よりアメリカで有名なコイン・マジシャンで、その巧みなコインさばきは惚れ惚れします。マジシャンオブザイヤーを受賞し世界のトップに君臨したこともある実力者のようです。マニアの間でも、それまであまり頻繁に使われる事の無かったウィルソン・パームという技法が彼の演技の影響で一躍脚光をあびましたね。動画は代表的な作品「ナード」。著書『最新コインマジック徹底解説!』(壮神社)にこのトリックの手順が解説されてますが、高度な技法が頻繁に使われる演技なので、よほどコインマジックに習熟した人でないと書いてある通りに演技するのは無理でしょうね。本にはウィルソン・パームの解説もあり、この技法自体はそれほど難しい技ではないのでコインマジック好きなら楽しめると思います。
http://www.youtube.com/watch?v=lRuCfyV8Q4k

奇術師がマジックの合間になにげなく行う職人的技巧のカードのシャッフルや、手のひらを自在に舞うコイン使いに見惚れた事があると思います。これらの奇術そのものとは別の曲芸的な技を総称してフラリッシュと呼びますが、中でもDan&Daveの神懸かり的なカードフラリッシュは衝撃的でした。優秀なサッカー選手が器用なリフティングを披露したりするとよけいにかっこよく見えたりしますが、フラリッシュの上手いマジシャンも負けず劣らずかっこいいですね。
Dan&Daveの神業
http://www.youtube.com/watch?v=1esLrz7exuQ

超能力や魔術や心霊といったオカルト風の現象を起こす奇術を総じて「メンタル・マジック」と呼びます。もともとマジックは宗教的指導者が信者を騙すために行われてきた詐術や、いかさま博打などが源流とされてますから、ある意味、もっともマジックの根源に横たわる暗部を象徴する分野なのかもしれません。この分野の有名なマジシャンというと日本ではMr.マリックですが、世界的にはマックス・メイビンとリチャード・オスタリンドが双璧であろうと思います。そのリチャード・オスタリンドの代表的なレクチャーDVDに『マインド・ミステリーズ』全4巻セットがあり、私も買ってしまったのですが、メンタル・マジックはセリフでの誘導がけっこう重要なので英語がろくに出来ない私には宝の持ち腐れでした。検索してみるとフレンチドロップで日本語字幕版が出てるようで、財布に余裕ができたら買い直したいです。面白いトリックが満載のDVDで、オスタリンドがメンタル・マジック界の最高峰と言われる理由がよくわかります。今回オスタリンドの数々のトリックの中で注目したいのは「ブレイクスルー・カードシステム」というカードマジックのトリックで、現象としては、シャッフルしたカードに手を触れず客が勝手に一枚抜いたカードをそのままポケットなどに隠してもらい、残りのカードもケースにしまってしまいます。この状態でカードを当てるというスゴ技です。まさに透視能力者のごとき見事なトリックです。「G’sファクトリー」というマジック・ショップで日本語訳が発売されていますが、これもけっこうマニア向きアイテムですね。いつでもすぐにサッとできるタイプのトリックではなく、それなりに練習と準備がいるので、アマチュアマジシャンにはあまり汎用性はなさそうです。メンタル・マジック全般にについては、この分野に造詣の深い松田道弘氏による『メンタル・マジック事典』『超能力のトリック』などが面白かったです。今でもいろいろと応用されてるメンタル・マジックの基本を総括していて面白い本でした。

日本ではユリゲラーや清田益章が一世を風靡したスプーン曲げですが、これもメンタル・マジックの基本レパートリーでもありますね。奇術によるスプーン曲げはさまざまな技法や仕掛けが考案されてきました。オスタリンドのDVDにもレクチャーがあり、これはタネのない普通のスプーンを使った技法ですが、いかに人間が物事を不正確に見ているかを考えさせられる秀逸なミスディレクションの積み重ねによる妙技でした。金属製のスプーン、フォーク、鍵、コインなどを曲げる奇術をメタル・ベンディングというみたいで、この分野で面白いなと思ったのはストリートマジシャンのMorgan Streblerによるフォーク曲げです。相手の手のひらの上で、目の前でぐにゃぐにゃと生き物のように曲がっていくフォークのインパクト。以前DVDを買いましたが、びっくりしたのは、すべてタネのないフォークを使い、巧みなミスディレクションのタイミングによって演技が構成されていたことでした。
リキッド・メタル
http://www.youtube.com/watch?v=fzFeKEVfvDg

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