
『奇想の陳列部屋』パトリック・モリエス 著 市川恵理 訳 河出書房新社
去年の末に刊行された古今のヴンダーカンマー(驚異の部屋)を紹介する風変わりなビジュアル図鑑です。さすが河出書房新社、目の着けどころがいいですね。原本は2011年に洋書で刊行されている『Cabinets of Curiosities』で、これはその翻訳のようです。珍奇なオブジェが陳列されている棚というイメージはとても好みなので、ついつい衝動的に購入してしまいましたが、なかなか面白い図版や写真が多く、ビジュアル構成も大胆に大きくキチンと見せてくれていて良かったです。妖しい博物館のような部屋は理想の空間です。

(左)『澁澤龍彦・夢の博物館』美術出版社 1988年 (右)雑誌『太陽』「澁澤龍彦の驚異の部屋」平凡社 1992年12月号

澁澤龍彦コレクションの一部。
ヴンダーカンマー趣味に目覚めるきっかけになったのはやはり澁澤龍彦の部屋の写真ですね。系統だったコレクションを整然と飾るタイプにはあまり興味が無いですが、澁澤のように個人的な好みだけでいつのまにか集まってしまったモノたちが、別種の個人的な規則によって集積している様は、部屋という場にコーディネートされたインスタレーションのようで、魅惑の空間ですね。

(左)『想像力博物館』荒俣宏 著 作品社 1993年
日本におけるヴンダーカンマー趣味の拡散には荒俣宏が大きく影響しているのではないでしょうか。この『想像力博物館』は、同名の博物館の建造計画書というか、奇想の博物館の案内書のようなコンセプトの変わった構成の奇書です。カラーページが無く、定価も高額なので、あまり広く周知されてなさそうな本なのが残念ですが、珍奇なビジュアルが満載のとても面白い本です。
(右)『シュヴァンクマイエルの博物館』ヤン・シュヴァンクマイエル 著 国書刊行会 2001年
風変わりなクレイアニメで有名なチェコのシュルレアリスト ヤン・シュヴァンクマイエルのコラージュ作品や立体造形などを収めた作品集。奇想のオブジェが満載で、底知れない才能を感じる作家ですね。

『ENCYCLOPEDIA OF SOURCE ILLUSTRATIONS vol.1』Morgan & Morgan 1972年
19世紀頃の細密版画を収録したイラスト事典。テーマ別に並べられた図版が、まさに紙の上の博物館めいて面白いですね。

『幼稚園えほん』秋田書店 1954年2月号
身近な驚異の部屋というのは玩具屋でしょう。誰しもが玩具屋の棚に陳列された種々のオモチャにワクワクときめいた経験があるのではないでしょうか。ヴンダーカンマーの原点、というか、こうした子供心が一見妖しい異端趣味にも見える奇想の陳列部屋に惹かれる本質なのではないか、と思います。