2014年03月20日

タロット夜話

トランプやカルタなどのカード遊具には、そのデザインや遊戯方法などに込められた様々な文化的、民族学的な背景が見え隠れして、とても興味をそそるものがあります。タロットとトランプの間の子のようなオラクル・カード、イタリアやスペインのトランプ地方札など、マイナーなカードをふくめるとかなりの種類があり、また、日本のものでも、百人一首、家族合わせ、うんすん歌留多、花札などなど、ユニークなカードがふんだんにあって、コレクター心をくすぐるアイテムです。

私はとくに、カード遊びや占いが趣味だったりはしないので、もっぱら、その雰囲気のあるカードのデザインに惹かれて蒐集している感じです。書物は定められた順番にページが並んでいないと「乱丁」とか「落丁」とかいわれ、不良品扱いになりますが、カードはそういうことがなく、むしろゲームでも占いでも、まずは「出来る限りランダムな並びであること」が重要になります。あらゆる組み合わせの並びを許容するのがトランプなどのカード遊具の特徴であり、占いにおいては、その天文学的な無数の組み合わせを許容していることが「膨大な可能性」を担保し、その秘めたる性質によって様々な結果を導きだす道具となりえています。

魔術の世界でも、タロットは霊的なエクササイズのツールとしている流派もあるようで、そのようにタロットカードは、とめどもつきない妖しげなイメージに負けない扱われ方をするカードでもありますね。

タロットカードは通常78枚で一組みです。タロットを象徴する「魔術師」「運命の輪」「死神」などの絵札22枚を大アルカナ、残りの数札を小アルカナと呼びます。

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「トランプとタロット」林宏太郎:著 平凡社カラー新書(93) 1978年
トランプとタロットの雑学をビジアルチックに展開していて楽しい本です。写真右は、「吊るされた男」のカードの様々なデザインを並べたページ。このような、大アルカナの各カード別にデザイン違いのバリエーションを並べている構成のカラー企画のほか、面白い図版が多いです。

カードの歴史については、これまで多くの人々によって研究されてきましたが、はっきりしたことは何一つわかっていません。中国説、インド説、エジプト説といろいろなカード起源説があり、またこれらがヨーロッパに伝わった経緯についても、ジプシー説、サラセン人説、十字軍説と諸説紛々です。いずれにしても十二世紀にはすでにヨーロッパに伝えられたと推定されています。p5
「トランプ カード遊び入門」佐藤重和:著 保育社 カラーブックス(416) 昭和52年

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今日のトランプゲームは、元来タロットカードから始まったものである。
「タロットの秘密[その神秘な歴史と大秘儀・小秘儀]」バーバラ・G・ウォルカー:著 魔女の家BOOKS 1992年

この本は、タロットカードの一枚一枚に込められた意味だけでなく、歴史的な背景や神秘学的考察をそれぞれの札について記したマニアックなタロット占いの書です。発売元の「魔女の家BOOKS」は、おそらく日本で最もコアな魔導書の翻訳本を世に出してきた出版社でしょう。究極の秘術といわれるアブラメリン魔術を解説した本などが出されたときは仰天した覚えがあります。私はただの珍本好きで集めてますが、「魔女の家BOOKS」と「国書刊行会」のオカルト本は、とくに西洋高等魔術の実践派には欠かせない貴重な翻訳を多く出している出版社ですね。

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魔術書関連の並んだ本棚。魔術は、日の当たる世界のまっとうな常識では捉えられない非合理的な「別世界の科学」です。どこか私たちは生活の中で、この世界をなんとなく解ったつもりになって生きていますが、こうした書物を開くと、ふと異次元の扉が軋んだ音を立てて開くかのような不思議な気分になります。

閑話休題。先の本「タロットの秘密」の序盤の導入の文章には上記のように、タロットが簡略化されてトランプになったという説を採択していますが、これは最近まで定説となっていたもので、昔のタロットやトランプ関係の本ではしばしば目にするスタンダードな説です。

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「ジプシー占い タロット入門」木星王:著 保育社 カラーブックス(303) 昭和49年
保育社のカラーブックスシリーズの「タロット入門」でも同様で、序文にはこう書かれています。

カードといえば、長い間われわれ日本人にはトランプという固定観念があった。ところがハート、クラブなど四スートからなる現在のトランプが生まれる前に、タロットとよばれる七八枚ものカードが存在していたのである。しかも起源は謎をひめていて、そこに描かれている絵の意味も謎に包まれているとあっては、興味をそそられて当然であろう。

しかし、これも、日本におけるトランプ、タロットカード研究の第一人者、伊泉龍一による大著「タロット大全」によれば、まったく逆で、どうもトランプの起源のほうが古いのではないかという驚くべき発見をしています。こういうところにも、未だに出所不明な謎めいたカードらしいとらえどころの無さを感じます。

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「タロット大全 歴史から図像まで」伊泉龍一:著 紀伊国屋書店 2004年
現存する資料から判断する限り、タロット占いよりもプレイング・カード占いの方が先に存在していた。しかも、プレイング・カードを占いに使うアイデアのルーツには、さいころを使った占いがあった。p151

プレイング・カード(Playing Card)というのはトランプのことです。プレイング・カードを「トランプ」と呼ぶのは日本だけで、英語圏ではプレイング・カードと呼びます。「トランプ」というのはゲームで「切り札」を意味する用語で、一説には、明治時代にカードをプレイする西洋人がゲームの最中に「トランプ」という言葉を使っていたために、それを耳にした日本人が、カードそのものの名称が「トランプ」であると勘違いしたものではないか、といわれています。

どこか、カンガルーの名前の由来を彷彿としますね、と続けて書こうと思いましたが、調べてみると、こちらも面白い事がわかりました。よく言われる「カンガルーという言葉は西洋人が『あの動物は何か?』という問いに、現地人が『カンガルー(わからない)』と答えたことに由来している」というのは俗説で、あまり根拠の無い説のようですね。横道に逸れましたが、まぁ、つくづく気に留めていなかった常識もアテにならないものだ、と再認識しました。

話を戻して、「タロット大全」で紹介されている説では、トランプはタロットカードを起源にしているのではなく、むしろトランプを元に新しく作り直されたカードがタロットカードである可能性を示唆しています。現実に資料として現存している本やカードに、タロットよりも古いトランプが発見されているのが最大の理由ですが、これもまた、仮にトランプより古いタロットが発見されたりしたら覆る可能性もあるかもしれませんね。

しかし、この近年のカード研究による説には、とても深い示唆を受けます。私たちの歴史に関する「常識」というものは、しばしば「複雑で煩瑣なモノから、単純化され合理化されたシンプルなモノに変わっていく」という時系列が知らず知らず染み込んでいます。スポーツのルールとか、法律とか、宗教思想の変化とか、あるいは個人的な技能の習得などで体験する経験則から、ついついそう思いがちですし、一面理にかなった「進化論」的な発想です。

それは多くの場合は当てはまります。しかし、また別に「足りないものを継ぎ足していくことで複雑化していく」という逆のベクトルだって正当な時系列であるのもたしかです。タロットがシンプル化されたものがトランプである、という思い込みは、カードの歴史が謎に包まれているのも手伝って、とても合理的な解釈に思えてしまう。カードの歴史に限らず、私たちは、わからないモノに関しては、よくこうした間違いを犯しがちですね。明らかになっていないある歴史の真実について、「シンプルで合理的に解釈できる説」と「表面的には常識に反しているようにみえ、複雑な論証の必要な説」があれば、一般にはついつい前者が正しいと思ってしまうようなものです。天動説が「常識」だった時代では地動説が間違いにしか思えないようなものかもしれません。「先入観を持たずに物事を見極める」というのは正しい姿勢ですが、先入観というのは経験から作られる強固な信念でもありますから、実際にはそれを意識することすら難しいものですね。カードの起源に関する説から、ふとそんなことを考えさせられました。

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「タロット 神秘と幻想のカード」毎日新聞社 1978年
タロットカードの雑学を絵本感覚でビジュアルに構成したムックです。A4変形サイズなので、ふんだんに盛り込まれた図版も大きく大胆に構成されていて見応え満点です。古本市でたまたま見つけた本ですが、良い買い物でした。

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同上。寺山修司の「偽タロットカード」
青森の生んだ天才詩人にして稀代のトリックスター、寺山修司は、独自の解釈で再構成した「偽タロットカード」を創案します。もともと妖しげなカードであるタロットカードが、寺山の手によってますます不思議な異次元感覚あふれるカードに変容しています。このカードは当時、わずか限定50部で販売もされたようで、現代ではかなりの高値で取引されているようです。各カードの名称など基本的なアイデアは寺山によるものですが、それをビジュアル的にデザインしたのは、当時の新人画家である薄奈々美。繊細な銅版画っぽい感じの線画が妖しくて素晴らしいです。

この「偽タロット」作りに関するエッセイで、寺山修司は諸説あるタロット起源説のうち、以下の説に一番興味をそそられたと記しています。

キリスト教の勃興とともに教権による迫害を蒙った祭司たち(エレシウス密儀の司祭)が、彼らの蒼古たる伝承を流浪のジプシーに託し、秘技伝承にふさわしい者にだけ秘密を打ち明けるように命じたという。しかも秘伝書はばらばらのカードの形にばらして、迷信的な占いや遊戯用の明らかに無害な玩具のカムフラージュをほどこしてあるのだから、偽装は完璧だったわけである。

「錬金術 タロットと愚者の旅」R・ベルヌーリ:著 種村季弘:訳

神の真理を記した一冊の書の秘密を守るため、選ばれた伝承者以外に気づかれないように、ページをばらしてカード遊具に偽装した、という一説ですが、たしかにタロットカードの逸話にふさわしいとても魅惑的な説です。タロットカードに描かれる数々の絵柄は、そのような謎めいた逸話に彩られていることによって、ますます妖しいムードを醸し出していますね。

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「タロット 神秘と幻想のカード」より、佐脇成行によるオリジナルタロット。幻想的でエロティックな点描画が素敵です。佐脇成行氏は現在はレオ澤鬼という筆名で活躍しているイラストレーター。書籍の挿画などでしばしば見かける細密な点描画などで知られていますね。

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「TAROT」中井勲:著 継書房 1973年
カードと解説をセットにした「国産タロットカード第1号」といわれている本のようです。カードのデザインは、マルセイユ版を元にしたものですが、タロットマニアにはあまり評判がよくないみたいです。たしかに、付録のタロットはデザイン的にもあまり美しくないのですが、その他、造本の特殊さや、装丁のユニークさはなかなかのもので、珍本好きにはそそる本ではあります。

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タロットカードの代表的な3つのデック。左からライダー版、マルセイユ版、1JJスイス版のタロット。最も占いに適しているといわれているのはライダー版ですが、デザインはマルセイユ版のアルカイックな雰囲気や、1JJの細密な絵柄に軍配が上がると思います。1JJは女教皇と法王の札がローマ神話のジュピターとジュノーに置き換わっています。有名なデックのわりにかなり特殊なものですね。

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猫だらけの可愛いタロット。1990年にミラノで作られた2000部限定のデックです。オズワルド・メネガッジイの製作で、22枚大アルカナのみのセットです。占いというより、コレクターズアイテムですね。けっこう小さなカードで、写真下は比較のために最もスタンダードなトランプ、バイシクルを横に置いてみました。

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赤と黒を基調にしたお洒落な線画が素晴らしい逸品、「クルーエル・シング・タロット」。スペイン製。タロットカードは、その妖しい図案を自己流にアレンジして自作タロットを作りたい欲求にかられるところがありますね。現代でも多くのアーティストの創造性を刺激してやまないモチーフです。そうした中で、たくさんのタロットカードが流通している現在ですが、中でもこの「クルーエル・シング・タロット」はとくに心惹かれたカードです。
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スペインのコミック作家、ルチアーノ・ヴェッキオが自身による作品「CRUEL THING(クルーエル・シング)」をテーマにして作り上げたお洒落なタロットカード。もちろん中のカードも素晴らしい出来映えで、数札の小アルカナもめちゃくちゃカッコイイです。

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上は、ダークなオカルト味の「ゴシックタロット(THE GOTHIC TAROT)」。イラストはジョゼフ・ヴァーゴ。彼は魔術をテーマにした音楽ユニットNox Arcanaでも活躍しているようです。下は「ヘルメティック・タロット(THE HERMETIC TAROT)」。あの魔術結社「黄金の夜明け団」の思想が盛り込まれたカードです。錬金術などの古文書を思わせる不思議なデザインに満ちた妖しさがなかなかです。どちらもアメリカ製です。

ほかにも、魔女をテーマにしたものや、ラヴクラフトのクトゥルー神話をテーマにしたものなど、たくさんバリエーションがありますが、タロットカードはトランプよりもかなり高価なため、コレクター泣かせのアイテムでもあります。

タロットは、ヨーロッパで育ったものですが、キリスト教を母体にした文化が主流を占める欧州において、その魔術的な図案に覆われたタロットカードは、やはり日陰の文化として現代まで生き延びてきたのだろうと思います。そうしたある種ダークなイメージのつきまとうカードですから、そのまんま妖しいテーマを扱ったオリジナルカードなども多く、そうした、さらにダークになったタロットカードは、へんに陽気なデザインのものよりも、「それらしい雰囲気」になりますね。
posted by 八竹彗月 at 22:51| Comment(0) | コレクション
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