2013年06月08日

フェリックス・ラビッス

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フェリックス・ラビッス画集『Felix Labisse』パトリック・ワルドベルグ編著 1971年 Andre De Rache 英語版

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同上『Felix Labisse』 「LE BAIN TURQUOISE」1968年

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同上『Felix Labisse』 (上)「LA CONSTELLATION DE LA VIERGE」 1970年(下)「UNE DOUZAINE DE SÉLÉNIDES」 1966年

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同上『Felix Labisse』 「L'APPRENTI SORCIER」1962年

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同上『Felix Labisse』 オカルティックな図案ですね。リボンに書かれた文字も官能とか魔術みたいな単語が見られ、妖しげです。青いトルソはまさにラビッス絵画の象徴的なシンボルでしょう。上部に描かれた指のサインは日本では性交を意味する下品なものですが、欧州では何を意味するんでしょうね?まぁ、あまり好ましい意味はなさそうですが。澁澤龍彦は著書『幻想の肖像』の中で、ラビッスを同じフランドル地方出身のマグリットやデルヴォーと比較して評してますが、その背徳的なモチーフの嗜好はクロヴィス・トルイユの作品を連想しますね。

マグリットに似ているけれども、マグリットほど哲学的で虚無的なところがなく、デルヴォーに似ているけれども、デルヴォーほどリビドー的で妄想的なところがない。さあ何といったらよいか、フェリックス・ラビッスは、やはりロマンの作家と呼ぶのがもっともふさわしかろう。
澁澤龍彦『幻想の肖像』


【フェリックス・ラビッス Felix Labisse】
画家、悪魔学研究家、1905年ドゥエに生まれる。一度もシュルレアリスムのグループに加わったことはないが、エリュアール、デスノス、プレヴェールらによって認められ、その名を知られるようになった。一連の「魔女」などのタブローのほか、芝居、オペラ、バレーの舞台装置においても、独自の幻想境をひらいている。パリ在。
『美術手帖 12月号増刊 シュルレアリスム』美術出版社 昭和45年12月


フェリックス・ラビッスはフランスのシュルレアリスト。青い肌をしたエキゾチックな顔立ちの謎めいた女性の絵がもっともラビッスらしい絵のイメージとして想起されるかと思います。しばしば背徳的で悪魔的なイメージを描きますが、それもそのはず、魔術の研究もしていたオカルティストでもあったようです。直接シュルレアリスム運動にかかわってはいないもののエリュアールなど著名なシュルレアリストたちとの親交があり、劇場の舞台美術などでもその才能を発揮しました。戦後、シュルレアリスムは急に失速し、パリでは人気のない時代遅れのかっこ悪いムーヴメントという扱いに変化してしまい、かかわっていた人物でさえシュルレアリストを自称することが恥ずかしかった時期があったそうですが、ラビッスはそうした中でも気にせず好んで自らがシュルレアリストであることを受け入れていました。ラビッスは、タブローからイメージされる妖しく病的なものとは正反対の、とても気さくで社交的な人柄であったようです。以下に、自宅を訪ねてきた日本人画家を快く招き入れるおしゃべり好きのラビッスの日常の側面が伺える記事をご紹介します。

パリの町並みを愛し描き続けた荻須高徳(おぎす たかのり)という日本人の洋画家がいます。彼がラビッスのアトリエを訪問したときの珍しい記事が美術誌『みづゑ』の1952年(昭和27年)6月号に掲載されていました。戦後のシュルレアリスムをとりまく環境、ラビッスの人となりを身近に感じる面白い貴重な記事です。以下、興味深い部分を引用します。全文はスキャンした画像を用意しましたので、興味のある方はぜひご一読ください。

戦前あれほどまでにパリ画壇を風靡したシュルレアリスムは一体どこへ行ってしまっただろうか。(略)新しい絵、わからない絵を「シュール」と呼ぶ位までひとつの流行をつくったものが、わずか数年間の戦争中にすっかり流行を変えてしまった。

ヌイイーといえば画家や彫刻家のたくさん住んでいる、いわゆるモンパルナスやモンマルトル、ましてメニルモンタン等とは正反対の位置にあって、ブローニュの森を背にした富豪の邸宅の多いところである。一軒建ちの白亜の家を奥に、いかめしく浮かんだ黒塗りの鉄の大扉を前にして、いささか、呼び鈴を押すのをためらったくらいだった。とりつぎに来た可愛いマドモアゼルは、私の来たのを心得ていて、ただちに書斎に招じ入れてくれた。書物のうず高くつまった棚に囲まれた窓越しに、内庭の緑の芝生が望まれる。頭髪はかなり白いが、つやつやした童顔に笑をたたえたラビッスはすぐ出てきた。

薄い水色のペンキで新しく塗りたてた、ひどく朗らかなアトリエのどの壁にも、どのガラス棚にも何か珍しいものがいっぱい貼ってあり、陳列してあって、何かとしゃべっている彼を背にして私はアトリエの中を見回している。シュルレアリストのアトリエは、ことに装飾家として活躍している彼のアトリエには何か目新しいものでいっぱいである。

荻須「時に戦後のアブストレー、ノンフィグラチーフの大流行で一向にシュルレアリスムの事をいわなくなっているのですが、戦前あれほど盛んだったシュルレアリスムは一体どうなっているのです?」
ラビッス「シュルレアリスムは少数になってるけれど、相変わらず世界中に続いています。これは昔からあるもので、将来も続くでしょう。クートーもシュルレアリストでないといっているが、やはりその中のひとりだし、ベルギーのデルヴォー、マグリットやイタリー人にもすぐれたシュルレアリストがいます。レオノール・フィニのように」

荻須「装飾美術(デコール)と、画架の絵とどっちがより興味があります?」
ラビッス「デコールの方はフィランソロピー(奉仕活動)です。(笑)」


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『みづゑ』1952年6月号 「ラビスのアトリエ訪問」p58
筆者の荻須高徳(1901〜1986)は愛知県出身の洋画家。
画家としての活動の大半をパリで過ごし、パリ市長だった時代のジャック・シラク氏に「もっともフランス的な日本人」と評される。1986年パリのアトリエで死去。享年84歳。パリのモンマルトル墓地にその墓がある。フランス国立造幣局が彼の肖像のメダイユを発行(1982年)したこともあるそうです。


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フランスの雑誌『Plexus』(vol.4 1966年)の表紙を飾るラビッスの絵画。

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(上)左からフェリックス・ラビッス、パトリック・ワルドベルグ、ルネ・マグリット
(下)左がラビッス、右はポール・デルヴォー
フェリックス・ラビッス画集『Felix Labisse』より
posted by 八竹彗月 at 00:32| Comment(3) | 芸術
この記事へのコメント
荻須の描く壁はいいですね〜個人的にはけっこう好きです、といっても画集を買うほどではないですが一度しっかり見てみたいと思っております(^_^)ゞ
あ、わたしはピースライトを愛飲しております☆
Posted by dekoya at 2013年06月14日 11:06
追記:
荻須と良く比較される佐伯祐三という同時期にパリで絵を描いていた画家がおりまして、たしか荻須は佐伯の奥さんと密通してたと思います。
荻須の描く壁も良いですが、佐伯の描く壁はその慈しみ深い人間性もあって荻須より質が良いです。
(もちろん私の個人的見解です)
ついでですが、ピースはライトよりミディアム、ミディアムよりロンピー、ロンピーより缶ピーの順で旨いのですがロンピーまで行くと一日1箱(20本)くらいで胃が重くなりますw
Posted by dekoya at 2013年06月14日 18:24
日本では情報の少ないユニークなシュルレアリスト、ラビッスについては、いつか記事を書きたいと思いつつ手を付けてなかったんですが、先日ブックオフで1950〜70年代までの古い「みづゑ」が1冊百円で大量に入荷していて、何か面白そうな号をと物色してたらラビッスについての珍しい記事があったので、それをきっかけに勢いで記事を書きました。

私は美術関連の知識はシュルレアリスム意外はあまりなく、もともと日本の洋画家はほとんど知らないのですが、荻須高徳氏は記事中にある「みづゑ」1952年6月号に載っていたラビッスの記事ではじめて知り、何者なのか興味があったのでネットで調べてプロフィールを知りました。

ご指摘されてるとおり、佐伯祐三とよく比較される画家のようですが、並べて見てしまうとたしかに佐伯のタッチのほうが味わいがありますね〜

タバコといえば、昔子供の頃親父がセブンスターを私に手渡し「このどこかに外国の名前が書いてあるが、それは何だと思う?」とクイズのような事を言ってきた思い出があります。セブンスターに限らずどのタバコにも書いてあることなんですが、答えは当時側面に書かれていた「健康のため吸い過(スイス)ぎに注意しましょう」ということで「スイス」でした。たぶんオリジナルではなく誰か知人から仕入れてきたネタだろうと思います。最近はこうした警告文がより長文でパッケージ正面に大きく入れられるようになって、このように無惨にパッケージデザインが破壊されたタバコを見るに名実共にカッコいい嗜好品ではなくなってしまったんだなぁ、と痛感しますね〜
パイプタバコの凝ったデザインの缶やエキゾチックなデザインの葉巻の木箱も輸入ものには大きな警告文のシールが貼られていて残念な気がします。いっそ違法にしてくれたほうが楽に禁煙できそうですが、酒とタバコは大きな税収ですからそうもいかないんでしょうね。
Posted by イヒ太郎 at 2013年06月15日 09:21
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