2013年01月20日

天体嗜好症

「これです。この不思議な月光の魔力です。月光は、冷たい火の様な、陰気な激情を誘発します。人の心が燐(りん)のように燃え上がるのです。その不可思議な激情が、例えば『月光の曲』を生むのです。詩人ならずとも、月に無常を教えられるのです。『芸術的狂気』という言葉が許されるならば、月は人を『芸術的狂気』に導くものではありますまいか」
江戸川乱歩『目羅博士の不思議な犯罪』


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ポール・デルヴォー『月の位相 II』1941年 油彩

デルヴォーはマグリットと並ぶベルギーのシュルレアリスト。彼をシュルレアリストと呼ぶのは厳密には微妙みたいですが、運動にかかわった人物との親交や、彼の作風からしてそう間違った解釈でもないでしょう。寂寞とした古風な建築物と無表情な裸体の女性群像、という彼の典型的な作風のイメージは、いかにもフロイト的な精神分析をさせたがってるような少年期の夢想の空間のようで魅力的ですね。絵の右端で宝石の鑑定をしているベージュのコートを羽織った痩せた人物は、デルヴォーの作品にしばしば登場するキャラクターで、ジュール・ヴェルヌの小説『地球の中心への旅』に登場するオットー・リーデンブロック博士です。
左の棚には鉱物と頭蓋骨が陳列され、隅では3人の学者が地質学の話題で静かに議論中のようです。リーデンブロック博士は新種の鉱物を発見したのか、側にいる学者が冷静を装いきれずに驚いた格好をしています。取り残されたように座る裸の女性、開かれた中央の扉から差し込む月光、床に転がる鉱物、すばらしいイメージですね。

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ジュール・ヴェルヌ『月世界旅行』 中学生宇宙文庫 小学館 昭和33年

ジュール・ヴェルヌ(Jules Verne 1828年〜1905年)はフランスの小説家。同時期の英国のH・G・ウェルズと共にSFの開祖といわれる著名な作家です。どちらも私はちゃんと読んでないのでアレですが、ウェルズが科学へのロマンを描くのに対してヴェルヌは未知の世界を冒険する行為そのものに潜むロマンを描き出しているように感じます。ジュール・ヴェルヌ、その名前を聞くだけで少年時代の甘美な空想が蘇ってくる方も多いのではないでしょうか。

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JULVERNE『Le retour du Captain Nemo』

ジュルヴェルヌは1970年代中盤にベルギーのブリュッセルで結成された4人編成のバンド。ジャンルはサロン系チェンバーロックということですが、ロックといっても管弦楽器、ピアノによる室内楽構成でクラシックやジャズに近い感覚です。バンド名は綴りは異なりますが、ジュール・ヴェルヌを意識したものでしょうか。曲もヴェルヌの物語のような冒険とロマンを感じますね。

JULVERNEの前期ベスト盤『Le retour du Captain Nemo』の中で一番のお気に入り曲『Pasticccio』

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『小学五年生』7月号 小学館 昭和25年
にこやかに夜空を見上げる少年少女。バックの天体望遠鏡が効いてます。天体幻想をかきたてる表紙ですね。7月号ということで、七夕とからんで天体関係の付録がついてたようですね。右は太陽系の惑星を並べた図ですが、下方の天文台が描き入れられていることで、実際の空に巨大な惑星が浮かんでるような不気味さがタマラナイ。

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『科学大観』第19号 世界文化社 昭和34年
当時は望遠鏡でしかその姿を知る術のなかった火星。未知であるということは、それだけ空想の広がる余地があるわけで、突拍子もない火星人像が面白いですね。

そういえば、1938年10月30日にハロウィン特別番組として、アメリカの俳優オーソン・ウェルズがH・G・ウェルズの『宇宙戦争』をラジオ番組として生放送し、それを聞いた多くの聴取者がラジオドラマを実際の火星人襲来の緊急ニュースだと勘違いしてパニックになった。という有名なエピソードがありましたね。

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『ALCHEMY & MYSTICISM』Alexander Roob TASCHEN
1671年に描かれた月の運行図。神秘的でかっこいいですね。

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『月は水銀 勅使河原三郎の舞踏』新書館 1988年
ダンスに興味を持つきかっけになった天才ダンサー勅使河原三郎の初期の作品を収めた写真集で、故・山口小夜子とのデュオも収録されています。勅使河原三郎の天体嗜好がダンス作品として見事に昇華された初期作品群、当時の動いてる映像作品を見てみたいですね〜 写真は本の表題にもなっている『月は水銀』という作品です。ガラスの破片のようなオブジェが突き刺さってる、というか、生えてるような、独特のクールなシュール感がいいですね。

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別冊新評『稲垣足穂の世界』 新評社 1977年
鈴木翁二、鳩山郁子、長野まゆみ、たむらしげる、鴨沢祐仁、原マスミ、あがた森魚などなど、日本の天体系サブカルチャーに決定的な影響を与え続ける巨人、稲垣足穂(1900-1977)。天体、鉱物、少年愛、飛行機、などの独自のモチーフをクールにナンセンスに、異世界の哲学のような、結晶化した仏教のような、不思議な作風で描く作家です。SFの手触りとは一線を画すその作風は今なお多くの崇拝者を生み続けています。
別冊新評は一人一冊で作家の魅力を多角的にビジュアルも含めて紹介していて、編集が素晴らしい雑誌です。この稲垣足穂特集号もなかなかの充実ぶりで、目次の画像で切れてる部分にも荒俣宏や松岡正剛など、人選にぬかりがありません。

月とシガレット

ある晩 ムーヴィから帰りに石を投げた
その石が 煙突の上で唄をうたっていたお月様に当った お月様の端がかけてしまった お月様は赤くなって怒った
「さあ元にかえせ!」
「どうもすみません」
「すまないよ」
「後生ですから」
「いや元にかえせ」
お月様は許しそうになかった けれどもとうとう巻タバコ一本でかんにんしてもらった

『一千一秒物語』稲垣足穂


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『絵本・逆流のエロス』稲垣足穂 現代ブック社 昭和45年
『一千一秒物語』をテーマにしたイラストや男色関係の資料、足穂論などなど、稲垣足穂の魅力をビジュアルに展開していく珍しいお宝本です。

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(左上)『太陽』特集・稲垣足穂の世界 平凡社 1991年12月号 (右上)この『太陽』の足穂特集号では、写真家 今道子による青を基調にした幻想的な少年の写真がテーマごとの合間にイメージ的に挟まれていて素晴らしいです。モデルがどこか三島由紀夫の青年時代のような文系の知的な顔立ちがいい感じです。(左下)『稲垣足穂の世界 タルホスコープ』コロナ・ブックス 平凡社 2007年 上記『太陽』の足穂特集号とほぼ同じ内容ですが、今道子の素敵な写真がザックリ削られているのが残念。(右下)『天体嗜好症』稲垣足穂 河出文庫 1988年 足穂の天体嗜好に焦点を当てたアンソロジー作品集。解説に勅使河原三郎が寄稿しています。『第三半球物語』『瓦斯燈物語』『月光密輸人』『彗星倶楽部』『水晶物語』などなど、目次のタイトルを眺めているだけでワクワクしてきますね。

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そういうわけで私も足穂に習ってお月様のコケラを飼うことにしたのです。
posted by 八竹彗月 at 05:49| Comment(0) | 宇宙
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