「とらんぷ」安部徳蔵著 第一書房 昭和13年発行(昭和15年・第3刷)
「うんすん歌留多」というのは、日本最古の和製トランプで、wikiには「室町時代にポルトガルの船員たちから伝わったトランプを日本でつくりかえたカルタ」とあります。ほとんど普及することなく歴史の中に埋もれたカードですが、その和洋折衷の神秘的なデザインには惹かれるものがあります。うんすん歌留多は全部で75枚のカードがあり、通説では伝わったトランプはポルトガルの地方札で、それが48枚1組、そこから同様の48枚1組の「天正かるた」が生まれ、さらに札を足した75枚組みの「うんすん歌留多」が作られた、とされているようです。
いつごろトランプが伝来してうんすん歌留多がつくられたのかははっきりしてないようですが、この本ではトランプの日本伝来を史料をもとに1543年 (天文12年)であろうとしています。うんすんカルタは絵札に七福神が描かれてたりなど、おもいっきり日本風にローカライズされたデザインが楽しいですね。
「天正かるた」と「うんすん歌留多」は、ネット上の資料を読むと区別して扱うのが正しそうな感じですが、いろいろと諸説混在している感じですね。この本では、そのあたりの考察が少しユニークです。「天正かるた」はポルトガル地方札の48枚を元に作られ、「うんすん歌留多」のほうは、それとは別に伝来した75枚組みのタロットカード(通常タロットカードは78枚ですが、トランプもタロットカードも、ヨーロッパ各地の地方札になると微妙に枚数が違う場合があります)を元にしているのではないか、というのが著者の考えです。「天正かるた」というのは、通説通り後世に名付けられたものですが、当時は、この枚数の異なる2種のかるたを特別には区別していなかったのではないか、と考察しています。
著者は江戸時代の史料「雍州府志」の記述を根拠に、「天正かるた」も当時は「うんすん(宇牟須牟)」と呼ばれていた可能性を指摘しています。「天正かるた」のネーミングの由来は、天正年間に作られたことが理由ではなく、著者によると、江戸後期の作家である山崎美成の著した「博戯犀照」の中の一文、「これは今も世にある処の四十八枚のかるた也、天正としもいふことは、初りの一枚に、ことに美事に彩色して、その札に天正金入極上仕入の八字あり、ゆゑに世に目して天正といへり」とあるように、「四十八枚のかるた」の最初の1枚に「天正金入極上仕入」の文字が入っていたことが「天正かるた」と称されるようになった所以であるとしています。でもこれはたんに「高級品ですよ〜^^b」というだけの宣伝文句ですから、75枚組みのほうには記されてなかったのかどうかが判然としません。まぁ、江戸時代中期になるまで名称すらハッキリしないほどマイナーな存在だったということですね。
ちなみに百人一首は1700年前後、いろはかるたは1800年代の中期あたりだとされています。花札もうんすん歌留多が元になって江戸時代に考案されたもののようです。
「とらんぷ」より うんすん歌留多を紹介するページ
「とらんぷ」より インドの珍しいカード。
「とらんぷ」は、トランプの歴史から占い、奇術、カード賭博のいかさま技術やいかさまに使われた道具類、世界各国の珍しいトランプの紹介、タロットカードの解説、など、かなりマニアックな構成になっています。
奇術の解説にしても、宴会芸レベルではなくかなり専門的でした。奇術用語で現在「フォース」と呼ばれている玄人っぽい技法まで紹介しています。フォースとは、ひと組みのデックの中から任意のカードを相手に選ばせる高等技術です。この本で紹介されているのは、「クラシック・フォース」と呼ばれる技法で、この本では「強制法」となっています。相手に自由に選んだカードだと思わせるのはカード奇術では欠かせない部分で、フォースをするために特化したトリックデックも存在しますが、「クラシック・フォース」は、普通のデックで行う技巧なので、特別な準備が必要なく応用が利くテクニックです。(カードマジックについては、「カードマジック事典」高木重朗著 東京堂出版 が定番です。クラシック・フォース以外のテクニックもたくさん載っています。)
現在の日本では、トランプ関係の書籍というと、ゲームや占いや奇術関係のものばかりで、にこうしたトランプそのものに関する蘊蓄を楽しめるものは少ないですね。(70年代の保育社のカラー文庫や平凡社のシリーズものの新書にそうしたものもあり、珍しい図版が多く面白いです)
「トランプとタロット」林公太郎著 平凡社カラー新書93 1978年
トランプの起源にはいくつかの説があり、そのひとつは中国起源説です。しかし、まだ確定的なルーツは明らかになっていないようです。
神保町のかるた専門店「奥野かるた店」に「うんすん歌留多」の復刻があったので衝動買い。
トランプコレクション
トランプの話
トランプの最大の魅力は、その神秘的なデザインです。ゲームや奇術などの遊戯や、賭博、占いなど、さまざまな実用を備えているのもトランプが廃れることなく現代まで生き続けている理由でしょう。最近の説では、タロットカードよりも歴史が古いとされています。様々な伝承に満ちており、なかでもファンタジックで好きな説は、神の真理が記された書物が太古の昔にあって、それをそのまま人間に与えると悪用されかねないので、すべてのページをバラバラにしてジプシーにそれぞれ渡した。というものです。人の人生を占うツールの伝承にふさわしい神秘的な話ですね。うろ覚えなので、もしかしたらタロットカードに関する逸話だったかもしれません。タロットも、大アルカナの22枚がヘブライ語のアルファベットに対応してるとか、人間の染色体の数と一致するとか、いろいろとオカルティックな話がありますね。
また、トランプは4つのスート(マーク)がありますが、それぞれはスペード(剣・騎士)、ハート(聖杯・僧侶)、ダイヤ(貨幣・商人)、クラブ(こん棒・平民)を表しています。この4つは四季にも対応しており、また赤と黒のグループに分けれることから、陰陽の対応も含有しています。そして、次が私が最も神秘性を感じる部分です。各スートはA(1)〜K(13)の13枚で、これを1+2+3+・・・11+12+13と全部足していくと91になります。同様に4種類の全てのカードの和を求めると91×4で364になり、残りのジョーカー1枚を足すと365、1年の日数と同じになるのです。トランプは知れば知るほど様々な寓意がまんべんなくちりばめられていて興味がつきません。