2023年08月30日

『クロス探偵物語』を延々と語る会

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探偵とミステリー


漫画でもゲームでも探偵もののドラマってむかしから大衆を惹き付ける人気のジャンルですね。ほぼ必ずなんらかの他殺事件が起きるストーリーであるにかかわらず、少年雑誌でもよく取り上げられるジャンルでもあるのは、やはりかつて江戸川乱歩が児童向けの探偵小説に力を入れて人気を博した影響がかなり大きいのでしょうね。現代の名探偵というと、コナンが突出した知名度ですが、人気がありすぎて、アニメ版は1000話を越え、原作コミックスも99巻出てるようなので、コナン少年のまわりでは毎日1件以上の事件が起きてることになりますね。まぁ、それを言えばサザエさんもドラえもんやルパン三世も歳をとらない設定なので、そういった長寿作品に共通する事情による世界観の破綻は必然的に生じることなので、野暮な詮索はやめておきましょう。言いたいことは、それくらい探偵とかミステリー系のジャンルは現代の日本では根強い人気なのだなぁ、ということです。

ミステリーの多くは殺人事件を扱っているので、読んでいて明るい気分になることはないですが、謎が解き明かされていくパズル的な知的快感や、犯人に追われたり、追いつめたりするスリル(※1)など、刺激的な面白さがありますね。最近は精神世界に関心が移っていることもあって、好んで読んだりすることは少なくなりました。とはいえ、探偵小説は事件のスリルや推理のパズル的な面白さだけでなく、夢野久作の『ドグラマグラ』、小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』、中井英夫の『虚無への供物』といった日本三大奇書を含む異端文学の宝庫でもあるので、単純に避けて通れない興味深いジャンルであります。

そうしたこともあり、とくに新青年系の昭和の探偵小説には古書マニア的にそそるところもあって、本棚に並べたい欲を刺激するところがあります。ミステリーものを楽しむことにはスピリチュアルな面では漠然と後ろめたさがありますが、つい引き込まれてしまうところがありますね。実際の探偵はけっこう地味な仕事だとも言われますが、フィクションにおける探偵というと、都会の闇にまぎれて生きるダンディな一匹狼的、というようなイメージ(フィリップ・マーロウとか神宮寺三郎的な)があり、ダークヒーローとはいかないまでも、スーパーマン的な肉体的なヒーローとはまた違った頭脳で悪を成敗する知的ヒーローといったかっこよさがありますね。

ゲームの中の探偵というと、今回テーマにあげた『クロス探偵物語』の黒須剣とか、『EVE』シリーズの天城小次郎、『御神楽少女探偵団』の御神楽時人が個人的に好きなゲームの中の探偵です。とくにEVEシリーズで小次郎の育ての親である桂木源三郎がすごく好きで、初代の声が納谷悟朗さんというのもあり、とびきりシブくてカッコイイ典型的な理想の探偵像を描き出しています。『EVE ZERO』の序盤で空港に迎えにきた小次郎の運転する車に乗った源三郎が無遠慮に葉巻をくゆらせ『この香りを楽しまずに死ぬなど愚かなことだ。おお、これぞまさにロメオの香りだ』と納谷悟朗さんのあの超シブイ声でつぶやくシーンがあります。これで急に葉巻に興味がわいてしまって、ちょうど懐具合も羽振りが良かった時期でもあったので、ロメオの葉巻(ロメオ・イ・ジュリエッタ)を味わってみたことがあります。

今はもう何年も煙草は吸ってないのでけっこうむかしのことになりますが、これが本物の煙草の味と香りなのか!と感動した思い出があります。ロメオは英国の有名な政治家、ウィンストン・チャーチルの愛用の葉巻でもあるそうです。有名ブランドの葉巻は一本で普通の煙草がワンカートン買えてしまう値段なので、ロメオは数本程度吹かした程度です。同じ時期に澁澤龍彦に憧れてパイプ煙草も挑戦しましたが、パイプは普通に喫煙するのにもテクニックがいるので、舌を火傷しながら苦戦した思い出があります。パイプ煙草は葉巻とはまた違った喫煙の醍醐味があり、葉巻よりは安価に楽しめるので一時期ハマってました。そういえばパイプもまたシャーロックホームズを連想する探偵アイテムですね。

閑話休題。中学時代に江戸川乱歩にハマって、その流れでむかしは推理クイズ系の本をよく買ってました。まだ金田一少年もコナンもなかった頃ですが、角川映画では金田一耕助シリーズが新作が出るたびに話題になっていたこともあり、また、松田優作のドラマ『探偵物語』などの影響で、子供にも「探偵かっこいい!」というムードがあった気がします。他に乱歩の少年探偵団シリーズをドラマ化した番組もうっすらと記憶に残っていて、内容はほとんど忘れてしまいましたが、オープニングのクレジットで二十面相だけ演者のクレジットが「?」になっていたのが個人的にすごくグッときました。二十面相はドラマでさえ正体を明かさない、というニクイ演出により、本物の二十面相が出演しているかのようなファンタジックな空想をふくらませていました。実際に二十面相を演じていたのは俳優の団時朗(※2024/5/7追記)さんとのことですが、今年の3月に逝去されていたようで、調べていてびっくりしました。ご冥福をお祈ります。

2024/5/7追記
団時朗さんの顔、どこかで見たような・・・と思ってたら、クロス探偵物語と並んで大好きなゲーム『街 〜運命の交差点〜』の馬部&牛尾編で白い帽子に白スーツのイヤミな大物俳優役のデューク浜地役でも出演してましたね〜


※1 犯人に追われたり、追いつめたりするスリル〜
スリルといえば不朽の名作、ウィリアム・アイリッシュの『幻の女』をふと彷彿としました。『幻の女』は、最初とくに情報もなくインスピレーションで手に取った作品でしたが、ドキドキするほどのスリルとサスペンス感に引き込まれた思い出があります。妻殺しの無実の罪で死刑を宣告された男と、裁判に不審を感じて男の無実を証明するために走り回る刑事の話です。男が妻を殺害したとされる日時には、男はバーで知り合ったゆきずりの幻の女≠ニデートしていたため、その女を見つければアリバイが証明されるわけですが、ほとんど手がかりの無いためにすんなり見つかるはずもなく、意外な展開をしていきます。死刑執行までのカウントダウンで章立てがされているのも臨場感があってドキドキしながら読み進めた覚えがあります。だいぶ前に読んだきりなので内容はすごく面白かったという印象以外はあまり覚えてませんが、古い作品ながら未だにミステリー系のアンケートで上位にランクインする名作のようですね。いずれ読み直すか映画化されたものを見るかしてみたいです。江戸川乱歩は、まだ本邦未訳だった頃に、この作品を原書で読んで感服し、すぐにでも翻訳すべし!と絶賛したそうですから、『幻の女』の日本での人気は乱歩の影響もそうとうあるんでしょうね。


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学研ユアコースシリーズ『ルパンからの挑戦状』(昭和49年)と『ホームズからの挑戦状』(昭和48年)
凝った編集の推理クイズの本です。表紙の素敵な絵は笠間しろう氏。笠間氏の絵は線に独特の色気があって憧れます。中の本編ではたくさんの個性的なイラストレーターが挿絵を担当していて、絢爛豪華です。


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小学館の学年雑誌『小学三年生』(昭和52年10月号)のふろく『すい理クイズブック・あなたは名たんてい』
表紙の絵は、山根あおおに先生の描く名探偵カゲマンと永遠のライバル、怪人19面相のツーショット。

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異端の探偵小説を並べた本棚の一角です。新青年系の作家は怪し気なオーラがあってたまりません。背表紙を眺めているだけで異空間に誘われるようなトリップ感がありますね。


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『EVE ZERO』(ゲームビレッジ 2000年 プレイステーション)


メモ参考サイト


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クロス探偵物語の話

個人的に推理ゲームのベスト3は、上記にあげた『EVE barst error』『御神楽少女探偵団』と、今回のテーマである『クロス探偵物語』です。ベスト3といっても、ゲーマーと言えるほどプレイした作品数はそれほどでもなく、PS3以降のゲームは遊んでないのでほんとに個人的な好みです。また、『ひぐらしのなく頃に』、『うみねこのなく頃に』も好きですが、推理ものというには変格すぎるので、外して考えました。

というわけで、やっと本題の『クロス探偵物語』(開発:ワークジャム シナリオ:神長豊 美術:玉置一平 サターン版が1998年、PS版が1999年発売)ですが、『クロス探偵物語』といえば作画の玉置一平さんの素晴らしい表現力(※2)を抜きに語れませんね。今でもアドベンチャー系は立ち絵と背景の組み合わせが多いイメージがありますが、クロスでは現代の基準でみても各話ごとに書き下ろしのキャラ込みのグラフィックが贅沢なほど多く、それだけでなく細かいモーションもそこかしこにあり、またキャラの服装も季節やシチュエーションに応じて変化があり、そのとてつもない労力に頭が下がります。おかげでシナリオの没入度を高めていますが、限られたスケジュールの中での作業なのでさぞや大変だったことでしょう。現場スタッフにそうとう細かい注文をつけられてたくさん描かされたのだろうな〜などとブラックな現場を邪推してましたが、当時のゲーム雑誌の記事を読むと、玉置さん自身、この作品にノリノリだったようで、自分から細かいグラフィックを提案してジャンジャン描いていたというようなことが書いてありました。そうなると余計に出るはずだった続編がポシャってしまったのが残念でなりませんね〜

オープニングはピチカートファイヴの『大都会交響楽』に乗せて人物紹介のグラフィックで構成され、期待感を高めてくれます。ゲーム音楽というジャンルがまだマイナーなイメージだった頃なので、リアルタイムに人気のポップアーティストだったピチカートファイヴが起用されてたこともメーカーの力の入れようが伝わってきます。本編の音楽も印象深い曲が多いですね。本編の音楽は、伝説のフォークグループ、「五つの赤い風船」の元メンバーだった東祥高(あずま よしたか)さんによる見事なもので、聞くたびにクロスの世界に浸れます。そういえば忘れてならないのが、エンディング曲。ショパンのピアノ曲「夜想曲 第2番 変ホ長調」というチョイスがニクイですね。余韻があって素晴らしい演出でした。

システム的な部分では、読み込みのタイムロスを劇的に軽減した「マッハシーク」と名付けられた高速データ読み込み技術もウリでしたね。読み込みのタイムロスは、とくに当時はなにげに微妙なストレスをプレーヤーに与えていたゲーム全般における問題点のひとつでしたが、クロスではそうしたストレスを見事に解消したことも地味ながら秀逸な点でしたね。

※2 玉置一平さんの素晴らしい表現力〜
ゲームのグラフィックというと、アニメ調のものが多い中で、あえて青年漫画系の写実に寄せたタッチの玉置さんを起用したところもクロスにハマりこんだポイントでした。時流に左右されない個性的な表現力がすばらしいですよね。雑誌のインタビューでも神長さんがそこのところに言及していましたね。


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セガサターンユーザーのためのゲーム雑誌『GREAT SATURN』(1998年4月号 毎日コミュニケーションズ)。表紙は発売されたばかりのEVEシリーズの新作『EVE The Lost One』の主人公、杏子(左側)とコンパニオンの夏海(右側)のツーショットです。右の記事は『EVE The Lost One』の記事より、天城小次郎のプロフィールカット。

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『クロス探偵物語』の音楽担当の東さんが所属していたフォークグループ「五つの赤い風船」のLPとCD。大ヒットした「遠い世界へ」が代表曲ですが、下町情緒あふれる「えんだん」も泣ける名曲ですね〜


メモ参考サイト
MVがかっこいいですね〜

演奏者は違いますが『クロス探偵物語』のエンディング曲に使われたショパンの名曲です。

『クロス探偵物語』の経歴が抜けていますね。クロスは音楽アルバムとして出なかったからでしょうか。



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第1話「名探偵登場」の話

ここからは各エピソードの感想などを書いていこうと思います。不必要なネタバレはなるべく避けるつもりですが、多少はネタバレを含みますので、気になる方はクリアしてから読んでいただければ安全かな、と思います。プレイする予定のある方はサターン版ではなくPS版を強くお勧めします。

黒須剣といえば声優、草尾毅さんの声でおなじみですが、最初にリリースされたサターン版では黒須剣のパートはテキストのみで声無しだったそうですね。草尾さんのクロスの演技はやたら秀逸なので、声無しバージョンが想像出来ません。第1話は黒須剣の活躍の拠点となる冴木探偵事務所に就職するまでを描きつつちょっとした事件をも解決するチュートリアル的なシナリオです。ゲームの多くはアクションにしろアドベンチャーにしろ序盤はつかみとしての面白さをキープしつつ、基本的な遊び方やキャラ紹介などをいかに退屈させずにプレイさせるかが大事なところですが、この最初の難関をクロスは実に巧みにクリアしているところも名作と呼ばれる理由のひとつですね。

交通事故で逝去した父の残した2億円の生命保険金により、かつて父と住んでいたアパートで何不自由の無い独り住まいをしていた主人公の黒須剣。彼は高校を卒業して冴木探偵事務所で働こうと決心します。この父の事故死は不審点が多く、この謎を解くことが探偵としての剣の当面の目的となるのですが、結局この肝心の謎は続編に持ち越されるので最後まで明かされぬままです。犯人は最初から存在しているお馴染みの人物であることが本格推理もののセオリーですから、なんとなく父の部下で剣の味方であるように描かれている大川さんが実は黒幕では!?と邪推しています。でも続編が期待出来ないので謎が謎のままで終わりそうなのが残念です。

この最初のエピソードでは、冴木事務所に来た高飛車な女子大生の依頼を、冴木の不在をいいことに就職する前に剣が勝手に解決してしまいます。普通はこういう非常識な行動をする人物を雇おうとは思わないはず(※3)ですが、なぜか冴木は怒るどころか才能を評価して剣は見事探偵として雇われることに成功します。冴木先生の海のように広大なおおらかさと寛大さがうかがえますね。剣は事件を独断で解決するまで憧れの冴木先生の顔すら知らない状態なのがナンですが、まぁ、冴木達彦が高名な探偵とはいえ、秘密を扱う職業柄、顔写真をおおっぴらに公開してなかったとしても変ではないのかもしれません。勝手に冴木を神宮寺三郎のようなダンディなちょい悪系のおじさまをイメージしていた剣は、温和な普通のおじさん顔の冴木にショックを受け「わかった!ジジイの面(めん)をつけて変装してるんですね!」と顔の皮を剥ごうとします。このシーンはなかなか笑える名シーンのひとつですね。

第1話はチュートリアルでもあるので、画面(キャラの各部位、頭や服や背景のアイテムなど)をポインタでクリックするとクロスがコメントするという仕組みや、事件の謎に近づくと現れる文字入力などが出てきます。女性キャラの胸をクリックするとマニアックなおっぱいへのこだわりを披露する剣の秘められた内面の声を聞けるのも楽しい部分ですね。あと、笑いをとるためにだけに時々現れるナンセンスなコマンド(第2話ですが、「尾行」をクリックすると「クンクン・・・このかすかな臭いは・・・そりゃ微香だっつうの!」とか)などはEVEシリーズを彷彿としました。

そして事件のキーワードを入力させる文字入力ですが、『クロス探偵物語』では、かなり限定的でマニアックなキーワードを入力させる場面が多々あるので、最初からその単語や雑学情報を知らない人は絶対に当てられないものもあり、クロスの実況をいろいろ見てますが、音(ね)を上げて攻略サイトを見てしまう実況者さんをたまに見かけます。私は運良く、というか、世代的には知ってる率が高いキーワードばかりだったので普通にクリアできましたが、何度も再プレイしているうち、「もしワザと間違えるとどうなるんだろう?」というのが気になり、文字入力でわざと何度も間違えてみたことがあります。結論からいうと、間違えるたびに剣がちょっとずつヒントを出してくれるようになり、それでも間違えると最後には勝手に答えを言ってくれます。数えてないですが、だいたい10回くらい間違えると正解を勝手に言ってくれます。なので、文字入力に関していえば、絶対詰まることは無く、答えを知らなくてもクリアできるようになっていました。上手く出来てるな〜と感心しますね。昔のゲームは不親切で鬼畜難易度の作品も多々ありますが、『クロス探偵物語』はそういう意味でも時代を先んじたユーザビリティを感じます。

鬼畜難易度といえば、H・R・ギーガーがグラフィックを手がけたことで話題になった知る人ぞ知る『ダークシード』(セガサターン ギャガ・コミュニケーションズ 1995年)という作品を思い出します。あまりに無茶な難易度の不親切極まりないゲームのため、付属の説明書にクリアまでの攻略法が全部書いてあるというめちゃくちゃなゲームでした。(しかも攻略を読んでもクリアするのはけっこう手こずったです)システム的な面は難がありまくりの作品ですが、シナリオやグラフィックは独特の世界観があり、現実世界と重なって存在する異次元の裏世界と行き来する設定などは、サイレントヒルの世界観を先取りした見事なアイデアだったと思います。むかしゲーム屋さんの100円ワゴンでゲットした記憶がありますが、さきほどアマゾンで検索してみたら5000円近いプレミアがついていました。今頃何がきっかけで注目されてるのか謎です。有名実況者さんがプレイ動画でもあげているのでしょうか?たしかにツッコミどころが多いので、実況向けにはいいネタになりそうなゲームです。

※3 非常識な行動をする人物を雇おうとは思わないはず〜
事務所の社員でもない赤の他人が事務所への依頼を勝手に受けて勝手に解決し報酬まで受け取ろうとするという、考えてみれば剣はかなりの非常識な行動に出てます。しかし、序盤の友子のセリフ「また、あんたなの?」から察するに、これ以前からたびたび冴木の留守の間に事務所に来て冴木への弟子入りを懇願していたことがうかがわれます。当然友子はそのことを冴木にも伝えていたでしょうから、冴木も自分に弟子入りしたがってる黒須剣という青年がいるということは事前に知ってた可能性は高いでしょう。「ゆがんだ名門校」のエピソードの序盤では、剣の父が警視庁きっての敏腕刑事であったことを冴木は当たり前のように言及していたことからも、最初から黒須という姓からピンときて剣の素性を把握していたのかもしれません。そういう背景を含めて考えれば、剣に多少非常識にみえる行動があっても、伝説のスゴ腕の刑事の息子に興味を持ち、むしろ剣の探偵としての資質や能力がいかほどのものなのかが気になり、それを見極めたいがゆえにあえて剣の勝手な捜査を放置していたのでしょう。依頼者と打ち合わせ中の剣の前に突然現れて助け舟を出す冴木のシーンからもそれがうかがえます。最初プレイしたときは、事件解決後に冴木から送られてきたなぞなぞFAXが推理力を試す試験というのはどうなのか?と思ってましたが、むしろ本当の試験は女子大生の依頼を解決した時点ですでにクリアしており、FAXのなぞなぞは剣の歓迎会をするためのたんなる余興にすぎなかった、というのが真相なのでしょうね。冴木が剣の弟子入りを「弟子を取らない」というポリシーを曲げてまですんなり認めたのもおそらくそのような事情からなのかな、とフト思いましたので、追記しました


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雑誌『GREAT SATURN』(1998年4月号 毎日コミュニケーションズ)より。
『クロス探偵物語』の企画、監修、シナリオを担当した神長豊氏のインタビューコラム。

メモ参考サイト
どうも現在はゲーム業界を引退しているとのこと。現在はキャンピングカーの制作販売を行う会社を経営してらっしゃるようです。もはやクロスの続編は叶わぬ夢ですが、せめて剣の父を殺めた黒幕は誰だったのか?とか、当時構想してらしたアイデアだけでもお聞きしたいところですね〜

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第2話「疑惑」の話

推理ゲームの中ではけっこう爽やかな青春ものっぽい触感のある『クロス探偵物語』ですが、事件そのものはけっこうヘビーだったり、グロかったり、シチュエーションとしてきわどいもの(SMとか制服フェチとか)の言及などもところどころあったりします。それでもなお爽やかさが印象として残るところが不思議ですが、これは剣や友子やマークなど、飄々として爽やかな主要キャラたちのイメージによるものなのでしょうね。玉置一平さんのすばらしさは、主要キャラだけでなく、チョイ役のキャラにも手を抜かず、ちょっとしか出番の無いキャラでもものすごいインパクトがあって、クリア後でもすぐ思い出せるくらい濃いキャラをたくさん表現しているところですね。

先の第1話で印象的なちょい役キャラは、いかにも怪しそうな当て馬キャラの石井(アンガールズ♀エのある依頼人の女子大生の元ボーイフレンド)ですね。この第2話でもショートカットの美少女、広川千絵里ちゃんを何度もナンパしてくる変な不良3人組がインパクトありましたね。とくにセリフの無い背後の赤い髪に黄色いサングラスの男がシュールで独特の存在感があります。「ヒロスエのパンツ」に釣られる不良グループというシチュエーションが時代を感じますね。喫茶店にいるモブキャラまでいちいち妙に凝っていてすごいです。この後のエピソードでもいい味を出している脇役がてんこ盛りで、玉置さんの並々ならぬ才能を感じます。

このエピソード(※4)では、警察に自殺と処理された銀行員の男の母親が、冴木事務所に息子の死にどうしても納得がいかず、他殺であることを証明することを依頼にやってくるところから始まります。この事案も剣が冴木から調査を任され奮闘するシナリオで、銀行員の男が当時世間を騒がせた「完全自殺マニュアル」(鶴見済著 1993年 太田出版)らしき本に書かれている通りの方法で自害したという状況が提示され、なにかと当時としては時代を反映した描写が多い印象がありますね。

調べてみると元ネタになったこの本は100万部を超えるミリオンセラー(※5)を記録したそうです。ゲーム内で友子はこの本を「ああ、あの悪趣味な本ね」と否定的に一蹴しますが、件の元ネタの著者、鶴見氏によれば、どんなに苦しい状況でも強く生きることを求められる社会の風潮に異議を唱え「いざとなれば自殺してしまってもいいと思えば、苦しい日常も気楽に生きていける」ことを提唱するのが目的である、というのがこの本の本旨のようです。とはいえ中身は自殺マニュアルですから、案の定否定的な意見が多く、マスコミからもバッシングされました。そうした批判的な状況とは裏腹に、実際にこの本が発売された年とその後の2年間は自殺者の総数は減少していたらしいです。著者の意図した結果を生んだのだとしたら、まぁ、良かった部分もあったのかもしれませんが、とはいえ人によっては劇薬みたいなものですから個人的に思うには、安易に手にとるのはおすすめできない本には違いないです。

実際に自殺するとどうなるかを直視することで逆説的に自殺する気をなくさせようという、この本の本旨が本音なのかどうかは置いておいて、こうした不道徳と一般に解釈されることが蓋然的な本は、なんらかの肯定的な意味付けをしないと社会に受け入れられないために、実際は扇情的にショッキングな表現を見せたいだけの表現であっても世間的反発を避けるためにエクスキューズとして肯定的な意味付けがされることはままありますので、判断が難しいところです。仏教における密教も秘密の教えだけあって一般人がみればとんでもない危険な教えがありますが、件の本もそういった扱いの難しさはあるだろうと思いますし、一部の人には薬になっても、一般には毒であるのかな、と思います。

ほかに考えられるのは、この本の中身は一種のレア情報の集積でもあるので、深刻な意味ではなく、ただ珍本奇本的な意味で読書マニアが手に取った、というのもあるかもしれませんね。スピリチュアルな観点では、自殺するとこの世でクリアすべき課題が来世に持ち越されるので、来世の人生がどんどんハードモードになりますよ、ということはよく聞きますね。確かめようのないことですが、人生を諦めずに人生を良くしていくためにがんばってみようとする助けに少しでもなるならば、そういう思想を受け入れてみるのもアリかと思います。ブッダが悟ったように、この世はそもそも全ての生命が必ず何らかの苦を体験するような世界なのですから、縁合って同じ時代に同じ世界に生きている人間同士、互いに助け合って少しでも安楽で幸福な状況を作り上げていきたいものです。というか、人の生きる意味というのは、互いに助け合いながらこの世を天国に近づけていくことなのかもしれません。

閑話休題。このエピソード「疑惑」では、クライマックスに探偵ものではお馴染みの、容疑者を全て集めての謎解きタイムがあります。金田一少年やコナンなどでもよく見るフィクションにおける探偵ものでは、お約束のシーンですね。しかし現実的に考えると、かなり妙な場面でもありますよね。絵面としては徐々に追いつめられる犯人の反応や、推理を分りやすく見せるための王道シーンではありますが、実際には関係者すべてに推理を披露する必要はないですからね。関係者全員が探偵の推理ショーにスケジュールを合わせて集まれるかどうかもけっこうハードルの高い条件のようにも思えますし、探偵の推理タイムに集合かけられた時点で犯人が意気消沈してしまって推理途中に白状してしまったら推理の段取りが中途半端なまま犯人が警察に拘束されてしまう、なんてこともありそうです。また、このエピソードのように、みんなが衆人環視の状態で息子の恥ずかしい性癖をバラされるとなると依頼者の気持ちはどうなるのか?(※6)とか、余計な想像をいろいろしてしまいそうになります。こういうのは意地の悪い野暮な詮索そのものではありますが、ネタ的な意味で考えてみました。こうした詮索をつきつめていけば、探偵の推理ショーを台無しにすることをテーマにしたギャグ漫画とかのアイデアとして使えるかもしれませんね。気分がのったら4コマ漫画とかで、数種類の推理ぶちこわしパターンをオチにしたものを描いてみたいものです。

※4 このエピソード〜
この第2話は、被害者が遺した手帳のアドレス帳に書かれた名前と電話番号から容疑者を絞り込んでいくシーンや、容疑者宅への張り込みや尾行など、クロスの全エピソード中もっとも探偵っぽい行動が多いシナリオで、剣の行動を通してプレイヤーに探偵になったかのような気分を疑似体験させてくれます。ストーリー的には地味なエピソードであるものの、プレイヤーをもっとも探偵っぽい気分にさせてくれるシナリオでもあり、次のシナリオに繋げるモチベーチョンを否応なく高める見事な構成に感服します。

※5 100万部を超えるミリオンセラー〜
90年代あたりの時代は、露悪趣味なサブカルチャーが流行った時代でもあり、『悪のマニュアル』(1987年 データハウス)とか、『危ない1号』(1995年 データハウス)や、『ザ・殺人術』(ジョン・ミネリー著 1993年 第三書館)をはじめ、あのインテリ御用達の文芸評論誌の『ユリイカ』(青土社)まで『悪趣味大全』と銘打った増刊号を1995年に出しているほど悪趣味がブームでした。ハッキングをテーマにした雑誌『ハッカージャパン』(白夜書房)の創刊も1998年でしたね。
根本敬さんの全盛期も90年代前後ですし、電波系という言葉もサブカル界隈で流行ってましたね。特殊翻訳家*下毅一郎さんが殺人鬼に関する雑学本で著書を発表していたのもこの頃ですね。また、美術やクラシック音楽などをテーマに分冊百科方式のシリーズを刊行していたことで有名なディアゴスティーニのシリーズでもこの時代には世界の殺人鬼を毎週紹介していく『週間マーダーケースブック』(1995年〜1997年 ディアゴスティーニ)という悪趣味なシリーズを刊行していました。振り返るとこの時代、かなり悪趣味≠ェブームだったことをうかがわせます。
カルト教団によるテロ事件があったのもそういう時期でしたし、日本全体として何かと業の深い時代だったのでしょうね。鶴見氏の『完全自殺マニュアル』もそうした時代背景の中で出版されたわけで、特別奇をてらって出版されたわけではなく、悪趣味ブームに乗って出されたものなのでしょう。しかし、悪趣味ブームとはいってもサブカル界隈の話なので、さすがに自殺を教唆しているともとられかねない件の本はそうした時代の中でさえ目立ってしまい、マスコミにバッシングされ、『クロス探偵物語』でも引用されるくらいに社会現象化してしまうことになってしまいました。

※6 依頼者の気持ちはどうなるのか?〜
被害者の務めていた銀行の同僚や上司がこの場面では集まってましたから、さすがにその場で被害者の性癖を暴露するのは、まだ探偵としての場数の少ない剣の暴走っぽい印象もうけましたね〜 それはそれとして、クロスのウィキをなんとなく読んでたら、このエピソードに登場する依頼者の高松洋子とその息子であり被害者の春彦はモデルがあるということで、初耳だったので驚きました。往年の大ヒットドラマ「ずっとあなたが好きだった」(TBS 1992年)に登場する佐野史郎さん演じる冬彦が春彦のモデルで、お母さんの野際陽子さんが春彦の母のモデルのようですね。キャラの顔を似せてないので気付きませんでしたが、たしかに冬彦と春彦という名前や、お金持ちのボンボンでマニアックな性癖の持ち主というところ、母親が厳しそうな和服の女性、などなど共通点が多いですね。

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雑誌『GREAT SATURN』(1998年4月号 毎日コミュニケーションズ)より。
『クロス探偵物語』のレビュー記事。発売前のサンプルロムから第2話を紹介しています。

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雑誌『GREAT SATURN』(1998年4月号 毎日コミュニケーションズ)より。


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第3話「ゆがんだ名門校」の話

クロスでの好きなエピソードのひとつです。第3話「ゆがんだ名門校」、第5話「紺碧の記憶」、第6話「タランチュラ」の3本は個人的に好みのシナリオです。というか、クロスをクリアしたプレーヤーなら好きなエピソードとなるとだいたいこのラインナップになるのではないでしょうか。この3本にはグロシーンがところどころあるのがちょっときついところですが、この3本はどれもクロス探偵物語の世界観を体現した甲乙つけがたい面白いシナリオですよね。

「ゆがんだ名門校」では2話に登場した不良にからまれていた千絵里ちゃんの母校、女子校の「エリス女学館」が舞台で、女生徒ばかりの秘密の花園で巻き起こる連続怪死事件の調査が今回の剣のミッションになります。ここから女性キャラの中でクロスファンに人気の高い高梨まゆなちゃんが登場します。まゆなは日本一有名な推理作家、高梨呂秋の孫娘というブルジョワ女子ですが、文武両道の正義感の強い利発な女の子で、千絵里と共にこの後のエピソードにも引き続き登場して花を添えることになります。

このエピソードに登場するキャラもまた個性派揃いで楽しいですね。チンピラ刑事の林田とか、明らかに某女優をモデルにしたのであろう保険医の松木泰子(※7)とか。中でもエリス女学館の学長、大野玉代のキャラがインパクトありすぎて夢に出そうな迫力があります。その有無を言わせない高飛車なおばさんキャラの大野に剣もタジタジで、彼女とのやりとりはとても面白かったですね。学長室でのコマンドで「つき合って」というのをクリックすると剣に指差されて「お前がつき合え!」とプレーヤーが怒られたり、「スリーサイズ」を聞こうとすると「死んでも聞きたくない!」と剣にキレられます。こうした推理とは無関係な部分にも遊びがあるのがいいですよね。

他にイイキャラというと、エリス女学館の理事長でもあり、高名な推理作家の高梨呂秋の後輩でもある頑固者のスキンヘッド老人、中村も印象深いですね。中村老人のボディガードが北斗神拳でも使いそうな胸に七つの傷のある男だったり、忍者のような身体能力の家政婦がいたりなど、3話目も絶妙にシュール感のある印象的なチョイ役も豊富なすばらしいエピソードですね。

本筋の推理にしても、事件の発端となるふたりの教師の死因がどちらもガンで亡くなるのですが、もし意図的な殺人なら、どうやってターゲットをガンにしたのか?という疑問が残ります。この難攻不落にも思える怪事件を、大野学長や刑事の林田の捜査妨害とも思える限定された行動条件と、数日という短い期間に犯人とそのトリックを暴き出さなくてはならないという、とてもスリリングなシナリオで、プレイヤーもこの3話目くらいから一気に『クロス探偵物語』の世界に引き込まれていきます。

ここでの文字入力のキーワードは犯人がターゲットを意図的にガンにするためのトリックのキーになるワードで、一見難易度が高そうに見えますが、何周もしてると、保険医の松木泰子との会話の中で何度もキーワードが出てくることに気付きます。ちゃんと事前にヒントが会話の中で何度も出てくるので注意深くプレイしていれば意外とすぐ気付いてクリア出来そうなパートかもしれませんね。

犯人が冷酷な殺人を続けた動機が明らかになってくると、やはりそれなりに犯行に駆り立てるだけの背景があることが分るので、犯罪に手を染めるのは間違った選択だとは思いますが、間違いを犯してしまった犯人にも同情的になりますね。このエピソードで犯人の用いたトリックは、けっこう斬新な不可能犯罪のアイデアに思えます。もし元ネタが無く、このトリックがクロス探偵物語のオリジナルのアイデアなのだとしたらかなり凄い発想だな、と思いました。

※7 保険医の松木泰子〜
名前と顔から容易に女優の松雪さんがモデルだな、というところまでは気付いたんですが、どうもその先があったようで。『名探偵保健室のオバさん』(宮脇明子 1996年 集英社)という漫画を原作にしたドラマが元ネタみたいですね。今頃になってそれを知りました。件の女優が主人公を演じていたみたいで、眼鏡も髪型も元ネタはそこからみたいですね。(たしかにそっくり! Google画像検索)


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雑誌『GREAT SATURN』(1998年4月号 毎日コミュニケーションズ)より。
発売延期のお知らせの記事。画像は「ゆがんだ名門校」からのキャプチャーで、ここは剣が校内を調査してるシーンですね。美女3人組のあんなところやこんなところをクリックすると剣がうれしそうに反応してくれるユーモラスな場面です。

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第5話「紺碧の記憶」の話

第4話「依頼者」は、ただシナリオを読み進めるだけのパートで、プレイヤーが推理するところはなく、ティーブレイク的なエピソードなので、とくに語ることはないため飛ばして第5話「紺碧の記憶」について語ろうと思います。

このシナリオは、『サクラ大戦』などアドベンチャーものでよくある夏のバカンスパートです。夏!海!水着の女子!といったサービスシーンを盛り込んだ華やかなエピソードで、賑やかで楽しい雰囲気に包まれながら和やかにスタートします。

このエピソードから日本一有名な推理作家という設定の高梨呂秋先生が登場します。呂秋先生も想像してたよりも温和なキャラでしたね。脇役もルパン三世の出来損ないみたいな刑事が印象的でした。高梨呂秋の名推理にいちいち反応して頬を赤らめながら「はぁぁ〜素晴らしい!さすがは呂秋先生!」とつぶやくシーンが印象的でしたね。日本の警察が所持している拳銃はスミス&ウェッソンのJフレームリボルバーということですが、このルパン刑事のピストルはちゃんとワルサーp38になっていて、細かいユーモアに頬が緩みます。ルパン刑事のジャケットの色が初代ルパンの青緑なのもツボでした。

このエピソードで事件の舞台になるのは断崖絶壁に立てられたホテルという、これまたミステリーものの古典にありそうな既視感の舞台でわくわくしました。友子の姉で人気モデルの美麗さんが伊豆のゆきが浜≠ナCMの撮影をしているいうことで、美麗の水着が見たくてたまらない剣は夏休みの休暇にゆきが浜を強引に提案します。ちょうどまゆなの祖父、呂秋先生の別荘が伊豆にあるということで、剣、友子、千絵里、まゆなの4人は高梨家の執事の太田の運転する車で伊豆に向かうことになり、呂秋の別荘で豪勢な食事を堪能します。先に伊豆に来ていた美麗の宿泊しているのは断崖のホテルなので、興味半分にホテルを見にいくことになった剣と美麗と友子は呂秋に借りた車でホテルに向かうことになります。そしてこのホテルで事件(※8)が起こることになるのでした。

ここではホテル内の探索が今までのエピソードにはなかった3Dダンジョンのパートになっていて、プレーヤーを退屈させないための仕掛けを次々に出してくる制作者の熱意が伝わってくるような感じがして、クロスの世界により深く没入していきました。剣や友子のいる最中に犯人があざ笑うようにCMの撮影スタッフが次々と凶刃の犠牲となっていく連続殺人事件、一刻も早く犯人を暴きこれ以上の犠牲を食い止めねば!という状況がスリリングなエピソードです。

このエピソードで忘れてはならないキャラは美麗さんのマネージャーの笠村さんでしょう。いかにも当時のバブル時代の業界人をカリカチュアライズしたキャラですが、嫌みなところがなく憎めないキャラですよね。藤田嗣治感のあるおかっぱ頭と丸めがね、額のホクロ、真っ赤なシャツに真っ青なネクタイという、当時流行っていたパーソンズとかKファクトリーなどのデザイナーズブランドを思わせる派手なファッションに身を包み、どんなシチュエーションにおいても妙にポーズを決めたがる超個性派キャラで、陰惨な事件の渦中において、ちょいちょい安らぎを与えてくれる味わいのあるキャラでした。

まゆなが剣にゆきが浜≠フ名称の本当の由来を話すラストシーンがロマンチックでしたね。まゆなもまた剣に惹かれていることを匂わすシーンですが、千絵里が剣にベタ惚れであることをふまえ、親友の気持ちを裏切ってまで剣にアタックすることもできずに、葛藤し、想いを押し殺そうとしているようなニュアンスも絶妙に表現していて、いじらしくも切ない感じの名シーンでしたね。


※8 ホテルで事件〜
ホテルの客の中でひとりだけ誰とも交流せずすぐ自室に篭ってしまう謎めいた人物、若林が最初に犯人だと疑われるという序盤の展開は、『かまいたちの夜』のヤクザ風の男、田中一郎を彷彿としますね。田中も室内でもサングラスを外さず誰とも交流せずに人目を避けている怪しい人物で、かまいたちでもしょっぱなからうさん臭い雰囲気を出していた人物ですよね。えてしてこういう怪しすぎる人物はフィクションの世界では絶対犯人ではないので、逆にプレイヤーがそういう人物を最初にノーマークにしてしまいがちです。また、必要以上に人目を避ける人物は、別の誰かの一人二役などのなんらかのトリックが疑われがちですが、クロスでは、そういうプレイヤーの思惑を見越した秀逸な展開で、若林というキャラの意外な使い方をしていて「やられた!」と思いました。


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第6話「満月の夜に」の話

第4話「依頼者」は選択肢の無いサウンドノベルといった毛色の違うパートでしたが、このエピソードも、オフィスビルの3Dダンジョンの中をパズルを解きながら最上階を目指してひたすら昇って行く異色のエピソードでしたね。シナリオ的には単調で、セキュリティのために仕掛けられているいくつかのパズルもほとんど作業っぽくて、正直面倒くさいパートですが、途中途中にクリアには関係のないユーモラスな小ネタがちりばめられていて、それが面白いものばかりなので、それがクリアまでのモチベーションになった感じでした。オフィスで偉い人が座ってそうな高価な椅子を見つけた剣が、自分と美麗さんのオフィスラブを妄想して一人芝居をはじめる場面は最高でしたね〜


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第7話「タランチュラ」の話

最終話だけあって、分岐がいくつもある実に凝ったシナリオでしたね。奇術でいう「マジシャンズ・チョイス」の仕掛けをシナリオ分岐で表現したような感じで、奇術で行われるようないわゆる予言のトリックをストーリー仕立てにしたシナリオになっていて、ほんとうに見事なシナリオでした。

この最終話に来て初登場のキャラ、マーク・スペンサー(マーク・レイマン)が主役を食うような勢いで颯爽と登場しますが、おそらく続編ではマークは剣と組んで大活躍する予定だったのでしょうね。続編が出ないのが返す返すも残念でなりません。

森の中にポツンと建てられた鹿鳴館と呼ばれる屋敷に招待された剣をふくめた11人が、次々に姿を見せぬ謎の殺人鬼モンスター≠フ餌食になっていきます。殺される順番が偶然にしか見えないような事件が連続して起こるエピソードですが、モンスターは殺人が起こるだいぶ前から屋敷の中に殺害する人物の順番を予言したアイテムを残していることが後に発覚します。殺人のトリックもさることながら、なぜモンスターは偶然に思える犠牲者の順番を前もって予知できたのか?という謎が最後まで残る不思議なシナリオです。この最後の謎は、すべての分岐をクリアすると、エンディングの後にマーク・スペンサー(声・井上和彦)がいつもの美声で全ての謎を解き明かす解答編の隠しシナリオが出現するという仕組みです。

最終話にふさわしい見事なシナリオですが、ただいくつかのトリックのうちのひとつは当時信じられていたサブリミナル効果がキーになっているものがあり、当時は違和感はなかったのですが、今の視点でみると再現性の低いトリックでしょうね。当時思われていたほどサブリミナルの効果については実際にはまだ解明されきっていない部分が多く、追試実験ではあまり効果は期待出来なさそうな微妙な結果も出てるようです。とくにゲーム中で行われたようなサブリミナルによる誘導は実際には再現はかなり困難だと思われます。

サブリミナルの研究は19世紀半ばからあったそうですが、1957年9月から6週間にわたって行われたとされる有名なポップコーンとコーラの例の映画館での実験の話が刺激的な内容であったことから一気に認知されるようになりました。しかし、例の有名な実験は後に懐疑的にみられるようになっていきます。データの信頼性を含め、実験自体が実際に行われたかどうかもはっきりしていないようで、その真偽が取沙汰されていますね。ただ、まったく効果が無いわけでもないらしく、今後の研究が待たれるところです。

『クロス探偵物語』の発売される2、3年前あたりは、地下鉄サリン事件で日本中大騒ぎしていた頃で、そうした中、犯行を指示した某教団の教祖の顔が著名なTVアニメで一瞬挿入されていたということが発覚してマスコミの話題にもなりましたね。サブリミナルにどこまでの効果があるのかは未解明にせよ、意図しないメッセージを刷り込む手法は公的な放送メディアのあり方としてはアンフェアなことには違いなく、放送メディアにおける国内基準としてサブリミナル的な手法を禁じる旨をNHKが1995年に、民法が1999年にそれぞれが明文化する運びになります。そうした流れでサブリミナルという言葉が90年代後半は一般にも一気に注目されるようになりますが、そうした背景を含めてみると「タランチュラ」のエピソードにおける例のトリックも、そうした時代のタイムリーな空気を感じますね。

他には赤緑色覚異常の蘊蓄も興味深いネタでしたね。色覚異常のほとんどは男性であるというのもクロスのプレイで初めて知りました。調べてみると、先天色覚異常は日本人男性の20人に1人(5%)、日本人女性の500人に1人(0.2%)とのこと。原因は女性の場合X染色体のふたつともが色覚異常の遺伝子を持つ場合に色覚異常になりますが、男性にはX染色体はひとつしかないために発症率が女性より格段に高くなってしまうということのようです。

こうしていろいろ振り返ってみると、『クロス探偵物語』、時代を反映しつつも、時代を超えようというチャレンジ精神に満ちた名作ゲームのひとつといえるでしょうね。ということで、今回は大好きな思い出深いゲームのひとつである『クロス探偵物語』について、思いの丈を存分に語らせていただきました。ご清覧ありがとうございました。


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雑誌『GREAT SATURN』(1998年4月号 毎日コミュニケーションズ)より。
『クロス探偵物語』の開発メーカー、ワークジャムのオフィスを直撃インタビュー。質と量を見事に両立させた功労者、グラフィック担当の玉置一平さんの制作中の裏話が興味深いですね〜



メモ参考サイト



posted by 八竹彗月 at 23:54| Comment(2) | ゲーム
この記事へのコメント
最近このゲームをしましたが今だに語られる事が多いのも納得の好きになれる作品でしたね。自分が生まれたばかりの時代の作品ですが楽しくプレイできました。上記のEveシリーズもしてみたいと思います。
Posted by タイチ at 2024年05月07日 22:56
クロスファンが今も着実に増えているようで嬉しいかぎりです^^

EVEの小次郎や、同メーカーの神宮寺シリーズなど、フィクションの中の探偵といえば裏社会に孤独に生きるアウトロー、みたいなイメージがありましたが、クロス探偵物語はあえてプレイヤーと同じ等身大の主人公を据えて、探偵をカジュアルに描き出した所も新鮮でした。

EVEシリーズもミステリアスなシナリオとユニークなキャラたちのハーモニーが絶妙で大好きな作品です。ぜひプレイしてみてください^^
Posted by 八竹彗月 at 2024年05月08日 16:00
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