2016年07月02日

野尻抱影『星座めぐり』

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生涯を星と共に歩んだ宇宙的ロマンチスト、野尻抱影(のじりほうえい 1885〜1977年)。最近何かと気になっている人物です。今回はその野尻抱影の42才の年に書かれた戦前の宇宙ガイドブック『星座めぐり』をご紹介しつつ、それを肴に日頃感じている宇宙のロマンについてあれこれ語ってみようと思います。

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野尻抱影『星座めぐり』 研究社 昭和2年(1927年)発行
夜空のような濃紺のクロス(布)に金文字が星のきらめきのように印刷されていてとてもムードがあります。


冥王星の和名の名付け親としても有名な野尻抱影ですが、冥王星がアメリカの天文学者クラインド・トンボーによって発見されたのが1930年ですから、実にこの本が出た3年後に冥王星が発見されたことになります。冥王星が発見されていない時期の野尻抱影の著書という意味でも面白みを感じる本です。内容は当時の最新の天文学による入門書であり詳細な図表も多い資料集でもありますが、そうした理系的な知識だけでなく、星に関する古今東西の詩が引用されていたりという、野尻抱影らしい天体愛あふれる本になっています。

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中扉を飾るロックウェル・ケントのシュールな版画。

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はしがきの一部。

はしがきで抱影は「単に愛読書というだけでは言い足りない。漫然と頁(ページ)を繰っているだけでも楽しい、という本が誰にもある。」として、そうした溺愛の書として当時42才の抱影氏が挙げているのがケルビン・マクレディ著『ア・ビギナーズ・スターブック(A beginner's star-book)』です。『星座めぐり』は、日本版の『ア・ビギナーズ・スターブック』を作りたい!という想いから作られた本であるとはしがきに書かれていて、抱影氏がそこまで愛する『ア・ビギナーズ・スターブック』とはどんな本なのか、とても気になり調べてみると、なんとネットで全ページ閲覧できるサイトがあり、興味深く拝見しました。見てみると、たしかに、構成やレイアウトがソックリです。

参考サイト
メモ『A beginner's star-book』Kelvin McKready著 1912
野尻抱影が溺愛した星の本、『A beginner's star-book』の全容。見開きの端をクリックするとページをめくれます。

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馬頭星雲と目次の見開き、旧字体の漢字がロマンチックです。

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馬頭星雲とはよく名付けたもので、ほんとに馬の首のような形が面白いです。宇宙の星々や星座はギリシャ神話からとれらた名前が多く、また中国でも織り姫と彦星の話のように寓話的な物語と結びつけられていて、昔から天空の星々というのは人類にとって、ただの光る点ではなく、ロマンチックな絵巻物のようなイメージで受け取られてきました。実際の夜空はペガサスやサソリやクマなどがリアルに具象化してるわけではなく、星の位置を覚える手がかりとして星を繋げてイメージ化していったのだと思いますが、しかし宇宙というのは人間の想像を超えたレベルの巨大さで、無限の可能性そのものです。馬頭星雲は、まさにそのような神話の世界のようなイメージがそのまま具体的に宇宙に具象化している感じで、果てしないロマンを感じます。馬頭星雲は諸星大二郎の傑作『暗黒神話』でも、壮大な宇宙的知恵とパワーを象徴する感じで描かれていて、この作品の影響で馬頭星雲にはとても深遠なものを感じるようになりました。『暗黒神話』は、現代日本を舞台にした伝奇ファンタジーで、日本全国を股にかけて主人公が自らの出生の謎を解いていく旅を描いた物語です。単行本1冊で、よくこれだけ壮大なテーマを描ききったものだとつくづく諸星先生の天才ぶりには驚愕します。

参考サイト
メモハッブル宇宙望遠鏡による超鮮明な馬頭星雲(NASA)
恐るべしハッブル宇宙望遠鏡! ここまで鮮明だと逆に馬の首っぽく見えなくなってきますが、それにしても壮大で美しいですね。

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左はアンドロメダ座の渦巻き銀河。

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左はおおぐま座の渦巻き状銀河。右は毎月の月ごとの星図を解説した章の扉。毎回章扉には星に関した詩が添えられていて、理系文系ひっくるめた幅広い好奇心で星を愛した抱影氏らしい構成が楽しいです。

銀河の形は、こうした螺旋状のほかにも棒状、楕円状、球状、といろいろありますが、やはり渦巻きのカタチをした螺旋状銀河が一番「宇宙っぽい」イメージがあってカッコイイですね。我々の属する銀河も渦巻き状で、これが壮大なスケールで今もリアルにものすごいスピードで回転しています。銀河という視点で見れば、地動説どころか太陽も絶え間なく銀河のまわりを公転していて、とてもダイナミックです。その速度たるや秒速217km(マッハ638)というのですから凄まじいです。(ちなみに地球が太陽の周りをまわる公転スピードは秒速30kmほど)そして我々の銀河も近隣宇宙の大規模構造のひとつとされるグレートアトラクターと呼ばれる重力場に秒速1000kmで引きつけられているといわれています。宇宙に存在するすべての物体は、さまざまなスケールの階層において、それぞれにダイナミックな運動をしているので、厳密な意味では、この宇宙には静止している箇所はマクロからミクロまで、どこにも存在しないことになります。去年の今日と、今と、来年の今日は、宇宙空間の中で考えると、とてつもなく隔たった別の空間ということになります。・・・・と、まぁ、このように、ちょっと宇宙視点でモノを考えるだけで、不思議なトリップ感覚になるので楽しいですね。

参考サイト
メモ銀河系に対する太陽系の動きをシミュレーションしたアニメーション(YouTube)

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先の章扉の詩の拡大。吉田一穂(よしだいっすい)の天体ロマンあふれる素敵な詩。

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太陽系惑星一番の人気者、土星のページ。

実際に人気の惑星ランキングをやっているサイトでも土星が案の定一位でした。星っていってもしょせんは球体ばっかり!と思いきや、この輪っかですよ。太陽系一のカッコよさ。個人的には太陽系一巨大なマンモス惑星、木星のファンですが、土星は次くらいに好きです。土星の衛星も木星に継いで豪勢で、タイタンなどは生命の存在する可能性も真剣に議論されていて興味深いです。イラストで海王星や天王星を描いてもただの青い丸ですが、土星を描けば一発でそれが星であることが伝わります。イレギュラーでありながら星のアイコンでもあるというその圧倒的存在感!望遠鏡でナマの土星を見てみたいです。ランキングを見てみると、上位にはやはりキャラ立ちした惑星が並んでいます。やはり何か特徴的なカタチをしているとか、面白い模様があるとかすると強いですよね。火星は・・・まぁ、とりあえず近所だから親しみがわくという感じのランクインでしょうか。火星は、身近であるだけでなく、人面岩とか、人類火星移住計画のウワサなど、ミステリアスなネタにもよく出てくるので、そうしたアドバンテージがランクを上げているような気がします。

参考サイト
メモ最新土星画像(NASA)
土星探査機カッシーニによって撮られた美しく鮮明な土星。この特徴的な輪ですが、厚みは1kmにも満たない激薄とのこと。

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ジャコビニ彗星。1905年出現時の写真。

ユーミン(松任谷由実)の曲で「ジャコビニ彗星の日」という大好きな曲がありますが、この曲で歌われているのはジャコビニ流星群のことのようです。歌詞にジャコビニ流星群の到来が予測されてた日付「七十二年十月九日」がそのまま歌われているのがとても印象的な曲です。「"シベリアからも見えなかったよ"と、翌朝弟が新聞拡げつぶやく」と、実際には盛大に予測が外れて観測できなかった事まで歌詞に盛り込まれているのが天文マニア的にもそそる曲なのではないでしょうか。ジャコビニ流星群は10月8日から10月10日前後の、主として夕刻に見られる、突発的な流星群で、ジャコビニ彗星から放出される物質によって起こる流星群である、とのこと。歌詞で歌われている「光る尾を引く流星群」というのは、よく聴いてみると、主人公の想像の中の光景で、実際に見た光景ではないことがわかります。出現するかどうかは気まぐれで、毎年見れるとは限らないジャコビニ流星群を、電話もなかなかよこさない彼氏のそっけなさに重ねているのでしょうね。このあたりの詩的なヒネリや情景描写の巧みさはさすがです。ユーミンの影響で到来の予想を外してしまった1972年10月9日がジャコビニ彗星を最も象徴する日付として記憶に刻まれることになったのが皮肉ですね。

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旧字体で書かれる天文知識にロマンを感じます。

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「月面の噴火口を想像した模型」とキャプションがつけられています。実際よりデコボコツンツンしていて、SFチックなムードが想像力を刺激します。

1968年のアメリカのアポロ7号によって人類がはじめて地球を離れ月面に降り立ちましたが、この本が出た時代はその40年以上前です。月は望遠鏡で見ることしか出来ない時代ですから、今よりもロマンあふれる星だったのでしょうね。今でも月面にUFOがいるとか人工の地形や物体が見つかったとか月の内部は空洞だとか、いろいろ想像力を刺激する噂が絶えないですが、それもまた、月がいまだに人間にとって関心が尽きない天体である証拠なのかもしれません。

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「別篇 星座・星名辞彙」扉。ここにも吉田一穂の詩が引用されていますね。

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上記の吉田一穂の詩を拡大してみました。

時に激しく荒ぶる海では、自分の位置を見失わずにいるために、いつも静かに天空で我々を見下ろしている星々が頼りです。そうした激動する海と絶対の不動心で居ます天空の星との対称を詠っているような詩ですね。ラストの二行、横転する「港」、逆さにひっくり返った「灯」が、どこか激しいアクシデントを匂わす不安感をかきたてます。全体に逆三角形に文字列が調整されていたりと、実験的で面白い表現のなかなか凝った詩ですね。

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「別篇 星座・星名辞彙」に収録された中から、面白そうな星座名を拾ってみました。「印度人座」がインパクトありますが、これは現在でいう「インディアン座」という星座のようです。


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黄道と太陽と地球の関係図

この図は、惑星と黄道の関係を示した図で、占星術を解説したものではないのですが、黄道の概念は星占いの基本になっているので興味半分で貼ってみました。星占いに登場するお馴染みの十二星座は、黄道(太陽の見かけ上の通り道)に重なる星座が元になっています。現在は占星術でいう十二星座が決められた時からだいぶ時がたっていて、歳差運動(地球の地軸の傾きの変化)により、現在はおよそ一個分ほど星座がズレているそうです。昔から占星術的な解釈などで見る星座の性格が当たってるような気がしなくて、占星術は全く信じてませんでしたが、自分の星座よりも一個前の星座の性格を見てみると意外に思い当たるフシが多く、「ああ、そういうことか」と妙に納得している昨今です。
posted by 八竹釣月 at 11:32| Comment(2) | 宇宙
この記事へのコメント
ボクは暗黒神話の影響か、オリオンの三つ星が「恐怖の対象」としてすり込まれちゃいましたσ(^_^;)
イラストの影響なら、馬頭星雲が、そうすり込まれても良さそうだけど...なぜか三つ星が。
ハッブルでの馬頭星雲...こんなに見れるとは、ただただ感心するばかりです。ハッブルの効率が前より良くなったとか(修理とか調整したとか)聞きました。更に良い映像が見れるものと期待してます。
Posted by あっきー ( t-aki ) at 2016年07月10日 22:05
あっきーさんも暗黒神話お読みになってたんですね^^
こんな壮大な物語を200ページ未満で描ききるというのは天才としか言いようが無いです。後半の謎解きは圧巻でしたね。

オリオン座の聖痕で気づいたのですが、後に同じジャンプで大ヒットした「北斗の拳」も、同様に、北斗七星の傷、つまり体に星座の傷を持つ主人公ですね。ケンシロウの傷は、とても上手いキャラ付けだなぁと当時とても感心したものですが、実はすでに諸星先生が先に描いてたことになりますね。

馬頭星雲は地球から1500光年も離れたところにあるみたいですが、ハッブルの画像は、間近で見ているような気にさせるほどの鮮明さがスゴイですね〜
ハッブルがバージョンアップしたというのは知りませんでした。今後もますます凄い宇宙の姿を見せてくれそうでワクワクが止まりません。
Posted by イヒ太郎 at 2016年07月11日 00:53
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