2015年12月25日

機械の美学・1 「バレエ・メカニック」

機械の造形的な美は、時として彫刻などの芸術作品を上回る美しさを感じることがあります。機械の造形美は、ただの芸術的感性によるものではなく、実用を追求した果てに結果として生じるメカニカルな美であります。自動車やミシンなど、最初から美しく見栄えを繕う必然性のある機械ばかりでなく、一般の人目につくことのない工作機械や実験器具なども、あらためて見ると、なんてカッコイイのだろう、と思う事がしばしばです。そういうわけで、今回は機械のメカニカルな美をテーマにいろいろ書いてみようと思います。

「機械」というと、現代では高度に複雑化してますし、コンピュータ制御されたヒューマノイドなど見ると、どことなく「人間まで後一歩」と思ってしまうほどの「人間らしさ」を感じますが、むしろ、そうした現代のハイテクノロジーの機械よりも、昔の歯車主体のアナログなマシーンにレトロな異世界感を感じて惹かれます。昔の機械に対するイメージというと、歯車の組み合わせによる単純な動きのイメージから、システムに取り込まれて人間性を失っていく社会を風刺するためのアナロジカルな負のイメージとしてしばしば引用されてきたと思います。

映画でもフリッツ・ラングの「メトロポリス」やチャーリー・チャップリンの「モダン・タイムス」などで、機械はどこか「非人間性」の象徴のような扱いです。機械はそもそも自然に湧いて出たものではなく、人間が作ったものですし、人間の生活を豊かにしてくれる助っ人であるのが本来の姿です。しかし、社会が近代化していくほどに権力者が機械によって庶民を支配するというコミュニズム的発想がどうしてもついてまわることになり、そうした社会不安が、自らを束縛する権力への比喩として機械を敵とみなす雰囲気を形成していったのではないかと感じます。

そうしたネガティブなイメージを背負っているからか、機械というものには、どこか物悲しいムードすら感じる事がありますが、逆にそこがまた愛らしいというか、いたいけなものを感じるのであります。機械にもし心があるとすれば、それはその機械の作り手である作者の設計思想を引き継いだものになるでしょう。最近なんとなく思うのは、機械は「役に立ちたい」という心を持っており、ちゃんと正しく使ってあげることで喜ぶような存在なのではないか、ということです。

なんだか案の定とりとめがなくなってきましたが、そんな感じで、機械の美や面白さを感じるアートや写真などをご紹介していこうと思います。

雷バレエ・メカニック

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TVFernand Leger - Ballet mecanique (1924)
「バレエ・メカニック」は、フェルナン・レジェ制作、マン・レイ撮影、ジョージ・アンタイル音楽、という豪華なコラボレーションで作られた実験映画。ダリ&ブニュエルの『アンダルシアの犬』を彷彿とするシュールな映像ですが、こちらのほうが4年ほど先に作られているので、影響をうけているとしたら『アンダルシアの犬』のほうでしょうね。前衛環境ビデオのような感じで、物語によって映像が繋がっているのではなく、タイトル通り「機械の舞」をテーマにイメージの連想ゲームのようにリズミカルに連なる映像がユニークです。

正直にいえば、当時のアヴァンギャルド映画としてみても、「アンダルシアの犬」や「詩人の血」など優れた実験作品は他にありますし、それほど目を見張るものがあるわけではないのですが、それでも歴史に埋もれることなく現代でもたびたび取沙汰されるのは、やはりフェルナン・レジェ、マン・レイといった高名な芸術家がかかわっているということによるのもあるでしょう。そして、なんにしてもこの「バレエ・メカニック」という思わせぶりなタイトルの魅惑的な引力によるところも要因として大きいのではないでしょうか。内容は「アンダルシアの犬」のほうが(個人的な見解ですが)圧倒的に上ですが、タイトルのポエティックなインパクトは逆に「バレエ・メカニック」が格段に上ですね。会話や文章などに引用したくなるカッコよさがある、といいましょうか。坂本龍一も同名の作品を作曲していますが、フェルナン・レジェの元ネタの映像やジョージ・アンタイルの楽曲とはあまり関係なさそうな雰囲気の曲です。おそらく映像作品としての「バレエ・メカニック」に対する思い入れというよりは、ただこのタイトルをつけたかったという理由が大きいように感じます。これもまさに、「バレエ・メカニック」というタイトルの魔力の為せる技なのではないでしょうか。

坂本龍一のオマージュ的な作品もいいですが、やはりオリジナルの楽曲こそ「バレエ・メカニック」という響きと共鳴していて好みです。「音楽の不良少年」と称されたジョージ・アンタイルのこの音楽のモダンなカッコよさもまた、「バレエ・メカニック」を見過ごせない作品にしている要因のひとつだと感じます。約90年前の音楽ですが、「かつての前衛」という古びた印象を感じさせず、むしろスティーブ・ライヒなどの現代音楽を思わせる新鮮なインパクトを感じます。サイレンや飛行機のエンジンなども楽器として使われ、パンクな、というより、この時代的にいうとダダ的なチャレンジ精神に満ち満ちた傑作です。実験映画というと取っ付きにくい面がありますが、ある意味、ジョージ・アンタイルの音楽のプロモーションビデオという感じで鑑賞すると気楽に楽しめますね。

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るんるんジョージ・アンタイル作曲「バレエ・メカニック」の演奏
検索するとロシアやドイツの楽団による名演奏もヒットしますが、個人的にイトゥス・アンサンブルによる見た目にもユニークな2012年の演奏風景をチョイスします。巨大なプロペラがシュールです。これがただの飾りではなく楽器として使われるというのが凄いですね。1970年代以降の現代音楽ではこのような試みは珍しくないのですが、さらに遡ること1920年代、90年前にもこのような刺激的な音楽が存在していることが驚きです。考えてみれば、この時代はダダイズムやシュルレアリスムといった芸術表現全般に影響を与えることになる前衛表現が席巻していた頃ですから、そうした意味では音楽の分野でもこうした表現があってもおかしくはないともいえます。しかし、ただ奇をてらった前衛音楽というだけでなく、意外にしっかり「音楽」としての醍醐味があって、独特のグルーヴ感のある面白い曲になっているところが時代を超えて聞き継がれている所以だろうと感じます。

雷フェルナンド・ヴィセンテの機械人間

近頃ちらほらネットで目にするシュールなサイボーグの作品が気になって調べてみると、フェルナンド・ヴィンセンテ(Fernando Vicente)というスペインのアーティストによるものでした。自動車の部品を説明した古いポスターに人体を上手い事ペインティングしているようです。SFというより、もっと別の奇妙なニュアンスを感じますね。メカニックにレトロ感のあるところがツボです。強い異世界感覚を覚える不思議な作品ですね。
フェルナンド・ヴィンセンテの作品

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解剖学的な機械人間を描く「アナトミアス(Anatomias)」シリーズより


雷アンソニー・ハウの風力芸術

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TVアンソニー・ハウの「風力彫刻」

アメリカ、ユタ州出身のアーティスト、アンソニー・ハウによるユニークな「風力彫刻」シリーズをセレクトした動画のようです。風を受けて奇妙な動きをするメタリックな造形の驚異! 異次元の機械のようなシュールなフォルムと不思議な動きがたまりません。素晴らしいセンスとアイデアです。一度生で見てみたいものです。

雷太田螢一の「働く僕ら」

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鬼才太田螢一によるレトロ・メカニックをテーマにしたユニークな絵本「働く僕ら」(リブロポート 1991年)。文章も日本語と共にドイツ語も併記されていてムードがあります。機械とドイツというと、テクノの先駆け、クラフトワークが思い浮かびますね。ドイツといっても、この絵本の場合、旧東ドイツのイメージでしょうか。1920年代の華々しさと重い空気感が同居した不思議な時代を背景にした感じで、独特のインダストリアルなユートピア感が表現されていて面白いです。

太田螢一というと、戸川純、上野耕路とのユニット「ゲルニカ」のメンバーとしても知られますが、個性の塊のようなイメージと画風、まさに異界の絵師ともいうべきアーティストで、今年はデビュー35周年になるそうです。本家HPでは、画業35周年を記念した企画ページを用意されていて、過去の傑作をたくさん拝見できます。気になる方は要チェックです。

雷テスラ・コイルの放電シーン

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テスラ・コイルの放電実験の様子。数百万ボルトの放電のすぐ近くで平気な様子で椅子に座っているニコラ・テスラの有名な画像ですが、この画像のインパクトは強烈ですね。アートパフォーマンスとしても一級のビジュアルで、実際にこういう実験を生で見てみたいです。ニコラ・テスラといえば、交流電流やラジオや蛍光灯などなど多数の発明で知られる天才発明家。彼の知名度は多大な実績のわりにマイナーなイメージもありますが、無線による送電システム発明が財閥の収益体制に打撃を与えるという理由でイルミナティに握り潰された、という陰謀論めいた噂とか、フィラデルフィア計画(テスラ・コイルを利用して巨大な駆逐艦エルドリッジをまるごと消失させたというミステリアスな都市伝説)にもからんだ人物であることから、なにかとオカルト界隈での知名度は圧倒的です。

テスラ・コイルの放電の様子を映した動画
posted by 八竹彗月 at 03:31| Comment(0) | 芸術
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