2015年12月13日

謎めく文庫

今回は、別世界から紛れ込んできたような不思議なテイストの文庫本のコレクションをご紹介します。どれも好きな表紙デザインを選んでるだけで、内容は必ずしも好みとは限りません。

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『キャンディ』テリィ・サザーン 角川文庫 1970年
異色のエロティック・ナンセンス・コメディ映画『キャンディ』の原作。カバーは映画化された作品のスチール写真を使用したデザインのようです。大胆な色使いと可愛いロゴがいいですね。


私にとっての本の魅力というのは、書いてある内容の如何は当然として、それ以上に本としての存在感にあります。存在感のある本というのは、中身を読む前に強烈な何かを感じます。それは、主にタイトルや作家名、そして表紙絵や題字のフォントなどデザイン的なところから、紙の種類やエンボスなどの特殊印刷からにじみ出る装丁の味わい、また、本自体が新しいのか古いのかによっても、本から感じるバイブレーションは変わってきます。

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教養文庫の久生十蘭傑作選シリーズ。画家の司修による幻想的で秀逸なカバーデザイン。(社会思想社 1976年)

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マルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』(1969年刊)と『美徳の不幸』(1970年刊)。どちらも澁澤龍彦翻訳 角川文庫
澁澤のサド翻訳は富士見ロマン文庫や河出文庫などいろいろなところから出てますが、この角川の耽美なレオノール・フィニの絵画を表紙にしたバージョンが好みです。


その本がそこにただあるだけで周囲の空気がふっと変わってしまうような、そんな不思議な雰囲気を醸し出す本が好みです。今回のチョイスは、そんなミステリアスな気分にさせてくれる文庫本たちです。文庫本は、ほとんどの場合はカバーの紙の種類や、デザインのフォーマットが出版社ごとにあらかじめ決められていますし、版型は全ての出版社で一律なわけですから、表紙デザインの重要度がとても高いジャンルです。そしてなにより、安価でもあるので、ジャケ買いならぬ表紙買いしたくなる衝動にかられることがしばしばあります。

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『家畜人ヤプー』沼正三 角川文庫 1972年
表紙画はエロスと幻想の画家、村上芳正の作品。中身の本文でも挿絵も描いています。村上芳正は、その類い稀な退廃のエロティシズムの表現で知られ、三島由紀夫や澁澤龍彦などの本をはじめ異色の作家の装丁や挿画でよく見かけますね。


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『人外魔境』小栗虫太郎 角川文庫 1978年
カバーの奇妙でシュールな鉛筆画は、後に鉄のゲージツ家として名を馳せることになるクマさんこと篠原勝之によるもの。この当時は唐十郎の劇団『状況劇場』の美術担当をしていた頃で、この時代のクマさんの繊細で幻想的な鉛筆画はとても素晴らしく大ファンです。


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『盲導犬』唐十郎 角川文庫 1974年
カバーの奇妙な味のあるコラージュは画家の合田佐和子によるもの。合田佐和子は当時は寺山修司の劇団『天井桟敷』でも宣伝美術や舞台美術などを担当していたりしてました。種村季弘の本の装丁でも良い仕事をしてましたね。独特の耽美的なシュルレアリスムテイストが魅力的なアーティストです。


文庫本という出版形式を世に広めたのは岩波文庫によるものだそうで、今でも岩波文庫は安価に本を提供し庶民の教養と文化への貢献をにない、日本人の教養を高める重要な役割を負っている老舗ですね。そうした教養人のための存在から、今のような誰もが楽しめるエンターテイメントの一種として文庫本が存在するようになったのは映画とのメディアミックス戦略などで70年代あたりに一大ブームをまきおこした角川文庫の存在が大きいように思います。横溝正史のシリーズで、杉本一文がカバー絵とデザインを手がけたものや、夢野久作の作品を手がけた米倉斉加年の表紙絵とデザインのものなど、角川文庫のデザインには傑作が数多いですね。あと好きなのは創元推理文庫のデザインで、味のある表紙が多いだけでなく、猫とか時計とか拳銃とかのジャンルを区別するアイコンもムーディーです。

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惜しくも先頃急逝なさってしまった金子國義デザインによる富士見ロマン文庫のシリーズ。世界のエロティック文学を発掘紹介してきた富士見ロマン文庫、デザインが上品で、大人の秘密の書庫といった雰囲気がたまりません。金子國義以外にも池田満寿夫もデザインを手がけていたようです。

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『金子國義・富士見ロマン文庫コレクシォン』2003年 ステュディオ・パラボリカ
雑誌『夜想』などの版元で知られるステュディオ・パラボリカから発行された限定1000部のコレクターズアイテム。金子國義が手がけた富士見ロマン文庫の表紙デザイン全64点がカードになっています。富士見ロマン文庫は1977年から1991年に渡り200冊近くの刊行を続けてきたそうですが、絶版にともない、金子デザインのあのシリーズが書店から消えていくのを惜しむファンの声も多かったようです。さすがに表紙だけのために文庫をコンプリートするのは大変ですから、こうした企画モノはうれしいです。


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金子國義本人がアートディレクションを担当しています。箱を開くと妖しく美しい金子ワールドに誘われます。

最後にこんな事を言うのもなんですが、私は文庫はあまり買わないタイプです。小説より趣味系の本、文字より図像が好きなので。だからこそ文庫はコレクションが少ないだけに選びやすい、というのがあって、今回は不思議テイストの文庫本をご紹介することにしました。
posted by 八竹彗月 at 22:40| Comment(0) | 古本
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