2015年12月05日

大正浪漫な鉱物世界

大正時代に発行された『女子理科鉱物学教科書』をご紹介します。図版が多いので画集のように楽しめる教科書です。この教科書、銅版画の細密図版にもシビれますが、鉱物学のウンチクが旧字体、旧仮名遣いで書かれていて、そうしたところも時代を感じさせムード満点です。たまたま開いた澁澤龍彦の本に、鉱物結晶の魅力について上手く表現している文章があったので合わせて引用してみました。

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『女子理科鉱物学教科書』(竹島茂郎、近藤耕造:共著 目黒書店、成美堂:発行)大正10年(1921年)発行
手近にあった蛍石(左下)、砂漠の薔薇(左上)、水晶(右下)などと一緒に撮ってみました。


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金平糖などの飴細工の標本みたいなスウィート感あふれる大正浪漫な鉱物画の口絵。印刷のレトロな色合いが、鉱物美の魅力を引き立ててますね。

結晶こそは最も反自然的な自然の物質、つまり、最もユートピア的な物質なのである。(略)さらに結晶は美しく、硬く、しばしば透明で、老朽や凋落(ちょうらく。落ちぶれる事)を知らず、原初の単純性を固辞して、時の腐食にもよく耐えている。(略)ユートピストにとって、結晶が神の作品中の最も純粋なものに見えたとしても不思議はあるまい。

(p42 「プラトン立体」)
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澁澤龍彦『胡桃の中の世界』青土社 1974年


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水晶の版画。まさに鉱物界を代表する結晶美ですね。こんな美しいカタチで、しかも透明!しかも天然の造形! 自然というものが一流の芸術家であることをしみじみ感じます。

プリニウス(『博物誌』第37巻第9章)は次のように書いている。
「なぜ水晶は六角の面をもって形成されるのか。その理由を見つけ出すのは、角の頂点が同じ形をしていないことの理由と同様、なかなか容易ではない。面の艶やかさについては、いかなる技術をもおよばないほど完全である。」

澁澤龍彦『胡桃の中の世界』p44


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長石の図版。甲は母岩に群生している長石の結晶。乙は長石結晶の構造図。

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畳を積み上げたような奇景で知られる讃岐屋島の畳石。スケール感の比較のために描き入れてある麓の着物女性たちが絵画的でイイですね。畳石は四国の香川県高松市の観光名物のひとつです。行ってみたいですね〜

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花崗岩と安山岩の鉱物組成の比較図。ジグソーパズルっぽい感じが面白いです。一般に岩石も鉱物もいっしょくたに「石」と呼ばれますが、鉱物は結晶構造を持ち化学式で表せるのに対し、岩石は鉱物や化石などの混合物です。(岩石と鉱物の違い)

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石灰洞の図。石灰洞とは、いわゆる鍾乳洞のことです。地下の魔境っぽい感じでミステリアスですね。

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断層の脇を走る蒸気機関車がかっこいい。

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キング・オブ・鉱物、ダイヤモンドの解説ページ。ダイヤモンドという名前は、ギリシア語のアダマス(征服し得ない、屈しない)に由来するそうで、名前からして王者の石という風格です。地球上の天然の物質の中では飛び抜けて硬く、モース硬度は最高値の10です。モース硬度9はルビーに代表されるコランダムですが、9から10の差は他に較べ格段に飛び抜けてます。モース硬度は単に硬さの順番をあらわしているものなので、実質的な硬さの度合いを表すヌープ硬度(下図参照)ではその差がはっきり分かります。いかにダイヤモンドだけが異常に硬いかがわかりますね。また、屈折率(光を反射する度合い)も最も高いため、屈折率を最大限に生かすブリリアントカットされたダイヤの激しい輝きは生で見ると本当に奇麗です。まさに最強の鉱物ですが、原石は意外に地味な風情です。和名は「金剛石」ですが、うまくその硬質な美をあらわしてますね。

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モース硬度の実質的な硬さをヌープ硬度でグラフにしてみました。数字はモース硬度を表しています。

ダイヤモンドはつい最近までは、地球上で最も硬く、屈折率も最も高い孤高の石でしたが、最近アメリカの研究チームがダイヤをしのぐ硬さと輝きをもつ「Qカーボン」と呼ばれる物質を開発したそうです。記事によると、このQカーボンなる物質、「自然界に存在するとすれば、どこかの惑星の中心核しか考えられない」ほどのものすごい硬さのようですが、そんなとてつもないものを実験室で作ってしまう人間の知恵というか、科学の力に驚嘆しますね〜

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柘榴石(ガーネット)の原石。柘榴石は原石の状態ですでに宝石のようにカットされたかのような結晶の美しい鉱物ですが、多産される鉱物でもあるために比較的蒐集しやすく、鉱物マニアには定番コレクションといえる石だと思います。組成によって赤や緑など様々な色のものがあり、モース硬度もおよそ7(水晶とだいたい同じ硬さ。鉄が約5〜6)あるので宝石としても親しまれている鉱物です。

モノーによれば、「結晶が完全に一定の幾何学的な形を示しているのは、その巨視的構造が、それらを構成している原子や分子の単純で繰り返しの多い微視的構造を、直接に反映しているからである。言い換えれば、結晶とは、微視的構造の巨視的な反映なのである。」−−−−こう考えれば、古来、多くのユートピストや神秘主義者が結晶を愛好してきたのは、彼らが無意識の直感によって、物質の究極の構造を透視していたからだ、と言えば言えないこともないであろう。科学以前に、彼らは科学の真理を先取りしていたのである。

澁澤龍彦『胡桃の中の世界』p43
posted by 八竹彗月 at 02:51| Comment(0) | 鉱物
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