2015年11月08日

星恋

ぴかぴか(新しい)星恋

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先日古書市に、あてもなくなにげなく出かけて、気ままに書架を物色していたところ、吸い寄せられるように手に取った一冊の本がありました。『星恋(ほしこい)』というタイトルの本で、そのロマンチックなタイトルが琴線に響きました。野尻抱影の随筆と山口誓子(やまぐちせいし)の俳句が交互に構成された天体ロマンあふれる本です。夜空を思わせる濃紺の表紙に山口誓子自身が書いた達筆な草書体の『星恋』の文字に胸がときめきますね。

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『星恋』山口誓子(俳句)、野尻抱影(随筆) 鎌倉書房 昭和21年[1946年]

天文というと、一見理系のイメージがありますが、星座名などはギリシャ神話などが元になっていたり、三国志などでは諸葛孔明が天体観測によって運命を悟ったりなどの描写がありますし、またSFでは否が応でも関わってきますから、文系人間にも親しいテーマであります。古来の天文学はアカデミックな側面だけでなく占術などのオカルティズムと密接にかかわりながら発展してきました。私などは稲垣足穂のような異色の天体嗜好文学や、勅使河原三郎の天体ロマンなテーマのシュールでポエティックなダンスに凄く惹かれるところがあり、ずっと「天体の情緒性」というものに関心がありましたから、今回見つけた『星恋』は、そうした気分にドンピシャだったわけです。

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『三国志演義』。中秋の天を指差し、自らの命運を予告する諸葛孔明。

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『星恋』より。天狼星(てんろうせい)とは夜空にひときわ明るく輝く有名な恒星シリウスの中国語名です。それにしても「天狼星」、英語名に負けず劣らずカッコイイ名前の星ですね。ちなみに谷村新司の歌や自動車の名前で有名な昴(すばる)はプレアデス星団のことで、いくつもの明るい星が固まって輝いている、つまり星々が統(す)ばる様子からスバルと日本では呼ばれていましたが、その後中国語の星名である「昴(マオ)」にこの読みが当てられたということです。

『星恋』の魅力は、俳句という日本古来の情緒的な表現形式と、宇宙天文というサイエンスなテーマとの見事なハーモニーですね。コンテンツは12ヵ月のそれぞれの星空でテーマを分けていて、一冊の暦のような構成になっており、本自体が詩的な宇宙を表しているような風情です。表題作の俳句は1月の最初を飾っており、昭和21年の元旦に詠まれたものです。ほか、いくつかいい感じの俳句をピックアップしてみました。

星恋のまたひととせのはじめの夜
(一月)

金星と月と懸りて雪照らす
(二月)

この月夜いつか見たりき猫の恋
(四月)

薔薇垣の夜は星のみぞかがやける
(五月)

螢火に天蓋の星うつり去り
(六月)

銀河濃き天球を船に載(いただ)けり
(八月)

木犀の香(か)や金星の方角に
(九月)

オリオンは一星遅る冬の宵
(十二月)

山口誓子


ほかにも、エッセイを担当する野尻抱影の文章も素敵です。野尻抱影は当時の天文マニアには有名な先生で、興味深い天文関係の知識や、天体と文学に関する芸術的な視点、また、日常の中で当たり前のように自然にふれあう星々との関係を楽しんでいる様を描き出していて面白いです。共著者の山口誓子の句の解説だけでなく、以下のような氏の好みの諸々の句も紹介していて、なかなか俳句の世界も面白いものだなと再認識させてもらいました。

荒波や佐渡に横たふ天の川 芭蕉

それぞれの星あらはるる寒さかな 太祗

星冴えて江の鮒ひそむ落葉かな 露沾

池の星またはらはらと時雨かな 北枝

初霜に行や北斗の星の前 百歳





ぴかぴか(新しい)和風な天体幻想

という感じで、和な感じとミスマッチなようで意外に親和性のある天体ロマンですが、文学だけでなく、博物学的な書物に描かれた惑星図や天文図なども妙にソソるものがあります。天文学の重要な発見や研究の基礎はほとんど欧州の学者によるものであるせいか、宇宙のイメージはどうも西洋的なイメージで空想してしまうクセがついてしまっているので、よけいにアジアチックな宇宙というものにとてもユニークなものを感じます。手持ちのコレクションに『博物新編』という漢文の博物事典の全3巻のうちの天文学がテーマの2巻目だけがありますが、土星などが木版画で彫られ、漢字で解説が付いているビジュアルの面白さが秀逸で気に入っています。

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以上『博物新編』第二集 明治7年[1874年] より。


検索してみると早稲田大学図書館のデータベースにも登録されていて、そちらで同書が高解像度で閲覧できます。
『博物新編』


ものはついでに早稲田大の古書籍データベースで、「天文」とか「自然科学」とかで適当に検索するとそれらしい本がヒットしました。以下適当に検索していて見つけた天文幻想を刺激する江戸時代の珍奇な図版満載の和本のリンクをいくつか貼っておきます。

『訓蒙図彙(きんもうずい)』第2巻 中村タ斎(なかむらてきさい):著
中村タ斎著の江戸時代の図解事典。全20巻。寛文6年(1666)成立。これは、その中の天文関係の図版が収められた2巻目。とても面白い本ですね。著者の中村タ斎はプロフィール読むとかなりの自由人のようですね。知性に秀でていただけでなく、慈愛にあふれた人格者でもあったそうで、興味を惹かれます。

『刻白爾天文図解』司馬江漢:選
これはスゴイ!江戸時代の天文図鑑。不思議な気分になってくる珍奇な図版が多いです。この木星と土星の不思議感覚などたまりません。刻白爾(コッペル)とはコペルニクスの事で、この本はコペルニクスの地動説の解説本です。司馬江漢は江戸時代の画家で、日本で最初に銅版画を作った人のようです。中国風の名前ですが、これは長く住んでいた芝新銭座(現在の港区東新橋2丁目)の「芝」にちなんでつけたもので本名は安藤峻です。

『天文分野之図』保井春海:画
天文図の掛け軸。カッコイイ!

『天文図解』井口常範:編撰 全5巻
1、2巻目が図版が多く楽しめます。



ぴかぴか(新しい)宇宙音楽

最後に宇宙や天体がテーマの曲などをいくつか。

るんるんThe Beatles「Across The Universe」
宇宙的な精神世界を歌ったビートルズの名曲。「ジャイ・グルー・デ・ヴァ・オーム」がインド風な感じで、ミステリアスですね。ブログ『プレイノート』様による和訳

るんるんEnya「Aldebaran」
ヒーリングな歌姫エンヤのスピリチュアル感覚あふれる楽曲が素敵です。題名のアルデバランは、おうし座で最も明るい恒星で全天21の1等星の1つ。このカッコイイ響きの名前はアラビア語の「後に続くもの」からきているようで、プレアデス星団の後に続いて地平から昇る様子が由来だそうです。太陽の44倍の大きさの巨大な星で存在感もそうとうなものです。星の大きさ比較の動画などで見ると上には上がいる感じですが、名前のかっこよさランキングではけっこう上位にきそうな星ですね。

るんるんGustav Holst「Jupiter」
「木星」をテーマにした記事でも挙げましたが、ここでも挙げておきます。ポップソングでもカバーされたりしているため、ホルスト『惑星』の七つの曲のうちでも『木星』はもっとも耳覚えのある曲ではないでしょうか。ミステリアスで雄大で、木星のイメージにぴったりの名曲ですね。

るんるんThe Fifth Dimension「Aquarius (Let the Sunshine in) 」
以前の記事でも紹介しましたが、テーマ的に通じるものがあるのでまた貼っておきます。アメリカの5人組のコーラスグループ、フィフス・ディメンション、5人組だから5次元(Fifth Dimension)というネーミングなのだと思いますが、この曲は占星術でのアクエリアスの時代を歌っていて彼らの代表曲ですから、まさにピッタリなグループ名ですね。

るんるんささきいさお「銀河鉄道999」
るんるんゴダイゴ「銀河鉄道999」
ささきいさおのTVアニメバージョン、ゴダイゴの映画バージョン、どちらも甲乙つけがたいですね。松本零士の原作は言わずと知れた宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」からアイデアをとっていますが、伝説の栄光無き巨大戦艦大和が宇宙船に化けるという秀逸なアイデアによる「宇宙戦艦ヤマト」といい、あらためて考えると、日本的なるものから題材をとったSFという、地に足の着いた切り口で独自のSF世界を表現する松本零士の才覚は今さらながら天才だなぁと感じますね。
posted by 八竹彗月 at 13:26| Comment(0) | 宇宙
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