2015年08月12日

絶景!大清帝国

大清帝国は波乱に満ちた中国最後の統一王朝で、1636年から1912年まで続きましたが、日本でいうと江戸時代から明治時代あたりの時期で、日本がそうであったように、東洋に西洋文明が怒濤のように流入してきた時代であり、一風変わった国際意識というか、否応無く精神的に世界観の拡大が起きた時代であったのだろうと思います。思想面では神仙文化の土台であり元祖スピリチュアルな感じの老荘に惹かれますが、美術では、明治〜昭和初期の戦前文化が好みの私としては中国でいうと清の時代の和洋折衷ならぬ中洋折衷といいますか、そんな東西の混沌としたバランス感覚に面白みを感じています。

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『芥子園図画譜』より。
昔の中国人のステレオタイプなイメージのひとつ、ラーメンマンでおなじみの弁髪ですが、もともとは満州族の文化だったようですね。満州族が中国を統一し清王朝を築き、多数派の漢民族にも弁髪を強要したことでこの奇抜なヘアスタイルが世界に広く知られる事に。思ったほど中国の古い風習というわけではないのが意外ですね。中国のステレオタイプといえば、男性の弁髪に並んで女性の纏足がありますが、纏足のほうの歴史は古く、宋王朝にまで遡り、つい百年ほど前まで続いていたそうで、こちらは約千年ほどの歴史があるようです。


清朝末期から中華人民共和国が成立するまではさらにカオスな時代でしたが、美術面ではそうした波瀾万丈の時代に似合わずパラダイス感覚溢れる魅力的な美人画の広告が溢れていたようです。逆に混沌の時代だからこそ民衆は心に楽園を渇望していたのかもしれませんね。この時代の中国の美人広告はけっこう人気があり、現在もレプリカのポスターや絵葉書、トランプの図柄などに流用されて楽しまれてます。

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戦前の中国美人広告画の第一人者、関對_による楽園感覚溢れるポスターを使用した絵葉書。

閑話休題、前置きが長くなりそうなので本題に。先日神保町の中国専門の古書を扱う店にぶらりと入り、何か面白い本はないかと物色してたところ、ものすごく琴線に響く画集を発見してしまいました。『呉友如画宝』と題する全3巻の横長の分厚い画集がソレなのですが、これは呉友如という清後期の絵師による膨大な作品を収録したもののようです。真偽不明の当時の怪奇なニュースや、歴史絵巻的なものや、美人画など、テーマは多岐にわたっていて、それらをイマジネーション豊かに描きあげていて飽きないです。

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『呉友如画宝』呉友如:画 上海古籍書店出版:刊 1983年
耽美、珍奇、風流な異才・呉友如の大量の作品が納められていて圧巻の一言。上中下巻とも電話帳のような分厚さです。中でも白眉なのが「海上百體図」と題された風流耽美な全百枚のシリーズで、今回はこの「海上百體図」からいくつかご紹介します。総じて、清朝特有の雅な宮廷ファションといい、生花、盆景などインテリア全般に華美な装飾が施されていて、モノクロ作品ながら極彩色の色彩を感じる逸品揃いです。


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庭園の奇石を肴に飲茶を楽しむ風雅な美女たち。奇石というのは、絵に描かれているような、珍妙な形状の岩石を愛でる趣味のことで、唐以前にまで遡るかなり古い中国の文化です。日本にも700年ほど前に中国から奇石趣味が伝わった形跡があるみたいですが、江戸時代中期には広く流行り、後にはつげ義春の『無能の人』でお馴染みの水石趣味として独自の発展がみられます。

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蘇州庭園に見られる奇石。日本の水石は、やはり日本らしく侘び寂びな静かな美を表しますが、中国の奇石はダイナミックでユニークな形状の珍妙さを楽しむようなところがあり、こちらもなかなか面白い世界だと思います。中国奇石のサイト(英語)

『呉友如画宝』は全く予備知識の無いままインスピレーションでゲットしたのですが、後で調べると、武田雅哉、中野美代子の著書などをはじめとする中国関係の面白図版などの引用元にけっこう見受けられるネタ本のひとつで、また、水木しげるの妖怪絵図のインスピレーション元になってたりする図版もあるそうで、けっこう評価の高い絵師のようです。しかし私が惹かれたのは、そうした珍奇な面ではなく、絶景の中に息づく美女の図の耽美な描写のほうで、ご覧の通り、絵師の底知れぬクリエイティビティを感じるところです。画集には、清朝末期、魔都・上海を舞台に活躍したといわれる呉友如の自在な筆の魔力が何千枚も納められていて、まだ全て鑑賞しきれてませんが、熱の冷めないうちに記事にしてみました。

異才・呉友如の画業は、これまた日本の中国研究における奇才・武田雅哉先生も著書『清朝絵師 呉友如の事件帖』(1998年)で詳しく紹介されているようで、こちらもそのうち読んでみたいと思ってます。
posted by 八竹彗月 at 03:37| Comment(0) | 芸術
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