2014年10月03日

マーク・ライデン

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「Anima Mundi」Mark Ryden 2001年発行

マーク・ライデンの初期画集「アニマ・ムンディ」をようやく手に入れましたので、記念にマーク・ライデンをテーマに記事を書こうと思います。念願の「アニマ・ムンディ」、「大肉天」の文字も金箔押しで入っていて妖しさ満点、造本的にもナイスな逸品です。公式サイトの情報では、発売当時はスペシャル・エディションも限定500部で出されたみたいです。しおりや大型カードなどが画集と共に観音開きのボックスに納められた豪華なバージョンのようで、コレクター心のツボを突きまくる素晴らしさですね。

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「アニマ・ムンディ」の裏表紙。

少女やレトロ玩具のモチーフに通じる「可愛らしさ」と、オカルト的な象徴や生肉などのミステリアスだったりグロテスクであったりするモチーフを自在に操り、ポエティックで幻想的な世界を構築し続けるマーク・ライデン。戦後のアートは難解で思索的なものになっていきましたが、ミレニアム以後の新しい潮流は、哲学から魔術へ、社会風刺から神話、寓話へ、といった感じで、象徴主義の復権のような雰囲気がありますが、まさにマーク・ライデンはそうした流れの先導者であるといえるでしょう。バービー人形などの60〜70年代のレトロ玩具や、可愛らしいぬいぐるみのような動物や少女たちが、ヒエロニムス・ボスやブリューゲルらのルネサンス期フランドルの画家のような技法で描かれているのもユニークですね。

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「アニマ・ムンディ」の背表紙と扉。

そういった魅力に満ちた現代美術のスター、マーク・ライデンですが、私が彼に惹かれる一番の理由は、中原淳一や沼田元気などのように、「作品のグッズ化」に非常に熱心なアーティストであることです。作品を豆本とかポストカードなど雑貨や文具的な玩具として商品化してみたりするところなどは、バービー人形とキリスト教を混交させたりする「呪物としての玩具」のような表現を得意とする彼らしいアプローチだなぁ、と感心します。美術館や画廊というある意味芸術の牢獄から解放し、むしろ作品を玩具とみなすことで、美術作品というよりは、さらに根源的なものへ、コケシや雛人形のような、現代におけるシャーマニックな呪物に変容させています。

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マーク・ライデンの作品集いろいろ。

さまざまな現れ方をする精霊か妖怪のようなエイブラハム・リンカーンは彼の作品の象徴的なキャラクターですね。どこか都市伝説の「小さいおじさん」のような奇妙な存在として、頻繁に、そしてシンボリックに描かれます。なにか個人的な特別な思い入れがあるのでしょうか。こうした「自分にしか分からないこだわり」というものは、しばしばクリエイターを名乗る人たちは恐れを抱き、敬遠する傾向にありますが、マーク・ライデンはそうしたモノほど作品における重要な役割を与え、愛情を持って描き続けます。表現に制限はないのだ、という真理を感じます。閲覧者に伝わるかどうかなどを気にせず、「マーク・ライデンの"リンカーン"みたいにパーソナルな内面のこだわりを表現してもいいのだ!」と教えてくれます。自分が本当に面白いと思っているなら、その「意味」は伝わらずとも「面白さ」は伝わるんですよね。また、その「意味」の所在の不透明さが、かえって謎めいた魅力にもなるわけです。

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「Hi-Fructose Collected Edition vol.1」2009年発行 風変わりでキッチュな現代アートを紹介するユニークな美術雑誌「Hi-Fructose」の特別編集版で、ハードカバー装のしっかりした造本です。表紙のシャボン玉少女の絵はレイ・シーザー。

クラシカルなモノと現代的なメージが融合したひとつの世界、立体を再解釈したキュビズムのように、マーク・ライデンは時間のキュビズムとでもいうべき、時空を自在にあやつる魔術師のようです。腐敗することのない生肉の楽園、魔術的な象徴に満ちた遊園地、愛くるしい少女たちはままごとのように錬金術で遊び戯れています。
posted by 八竹彗月 at 06:23| Comment(4) | 芸術
この記事へのコメント
>「アニマ・ムンディ」
なかなか妖しくって良いですねっ独特のレトロな可愛さを保ちつつも、なんと妖しいことか。
Posted by あっきー(t_aki) at 2014年10月13日 03:25
マーク・ライデンのオカルト嗜好は可愛らしい画風を妖しく彩っていて、独特の深みを与えていますね。
書名の「アニマ・ムンディ」は「世界霊魂」という意味のラテン語からきていて、全ての魂は本質的に一つに繋がっているという神秘思想を表しているそうです。
Posted by イヒ太郎 at 2014年10月13日 22:25
こんばんは。
リンカーンというチョイスが
何とも絶妙な味を醸し出しています・・・。
パートナーのマリオン・ペックも
なんとも不気味で懐古的な作品が多いですよね。
そう言えば、トレヴァー・ブラウンや
アレックス・グロスのような作家さんもいましたね〜。
Posted by 左方 進 at 2014年10月19日 18:52
2000年前後のアートの潮流というか、マーク・ライデンの登場以降、レトロで可愛くてちょぴり気持悪い感じのマーク・ライデン的なアプローチの作風の絵師が続々と現れましたね。

マーク・ライデンの直接的な影響もあるでしょうが、それとは関係なく日本でも「キモ可愛い」という価値観が現れはじめたのもこの頃だった気がします。水野純子を筆頭に毒のある可愛らしさとレトロチックな表現をする作家さんが続々とあらわれてきて刺激になりました。


>マリオン・ペック

マーク・ライデンの奥さんも絵描きなんですね〜
恥ずかしながら今検索して知りました。タッチが激似ですが、やはり夫の強烈な影響なのでしょうか。

アレックス・グロス、以前何度か絵をネットで見かけたことがありましたが、この人もユニークですね〜
Posted by イヒ太郎 at 2014年10月20日 01:33
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